スギダラツアー2019 in 山形
 

高畠町立図書館・高畠町立屋内遊戯場

文/平手 健一
写真/太田 拓実

   
 
   
 

 テラダデザイン一級建築士事務所取締役社長 平手です。
高畠町立図書館と高畠町立屋内遊戯場が同時オープンしました。
町民待望のこれらの施設には、一ヶ月で二万人の来場者があるようです。

 読書や勉強をしている学生。
 舞台で演奏している学生。
 空間の広さに歓喜している夫婦。
 ソファー席でゆっくりと外を見ている老夫婦。
 楽しそうに遊んでいる親子。
 綺麗に本を並べているスタッフ。
 子供を見守っているスタッフ。
 ・・・

こんな光景を見ると、改めてこの建築の設計に携われた喜びに満ち溢れます。
こんな光景を目指して設計した日々の道のりは、決して簡単ではありませんでしたが、住民代表の建設検討委員会の皆さま、町役場の担当者、地元の施工業者、木材の関係者、そして設計チームの思いが一丸となり協力しあえたことで、この建築が確実にこの地に根付く一歩を踏み出せたのだと思います。

 これらの施設の設計を通じて、建築の役割や既存建築の再利用について自分なりに考えてきました。
図書館、屋内遊戯場、それぞれの設計に用いた具体的な手法とともに、その考えについて述べたいと思います。

   
 
  ◯建築の役割(図書館)
   
 
  伸びやかに広がる片流れの大きな屋根
   
 
  中庭を中心にL型に配置した開架エリア(左)と閉架エリア(右)
   
 

 この図書館は、とてもシンプルな構成です。

 片流れの大きな屋根。
 白い外壁と黒い屋根。
 木材で仕上げたアプローチの外壁と軒裏。
 天然石材で仕上げた基壇部。
 林立する木柱。
 中庭に面する縁側と舞台。

誰でも一目で建築の構成が理解できるので、見る人によってはシンプルすぎてつまらない建築、特徴の無い建築と思うかもしれません。
でも、これでいいと思うのです。
美しい自然が広がる高畠の地において、斬新な外観の建築や複雑な構造の建築は必要ありません。
必要なことは、住民がどのような関わりを持ち、地域にとってどれだけ大切な施設と思えるかだと考えました。

 片流れの大きな屋根は、自然落雪するのに適した勾配を設定し、落雪先には十分な堆雪スペース、除雪車ルートを確保した豪雪地域における合理的な構造です。
また、西側を背にして建築をL型に配置して、この地の特徴である強い西風を遮断することで、この地の自然環境にふさわしい形状、配置としました。
外観の意匠は、白い外壁に黒い屋根のシンプルなカラー構成に対して、外部の主動線であるアプローチの外壁や軒裏を地域の木材である「高畠杉」で仕上げ、建物の基壇部には地域の天然石材である「高畠石」を使用して、目を引く仕上がりとなっています。
地域の素材で建築を構成することで、自然とその地域に馴染む外観になると考えました。

   
 
  高畠杉で仕上げたアプローチの外壁と軒裏・高畠石で仕上げた基壇部
   
 

開架エリアも、書架の側板機能を兼ねた薄い木柱が森のように林立し、高畠杉をふんだんに使用した温かみのある空間となっています。
天井が高く開放感のある開架空間と、天井が低く落ち着いた個室空間を明快に区分することで、単純明瞭な空間構成にして、自分の位置を簡単に理解できるようにしました。
さらに、どの位置からでも目的の本まで迷うことなく辿り着くことができるように、林立する柱には柱番号や書架分類を記載し、誘導サインとして機能させ、誰にとっても分かりやすく使いやすい空間を目指しました。
本を読む場所には、中央の閲覧テーブル、窓際の閲覧コーナー、学習室や静読室といった個室空間、飲食可能な休憩コーナーなど、その日の気持ちに合わせて利用できる様々な居場所を確保しました。
また、広いエントランスホールや開架エリアに面する縁側、閉架エリアの一部を利用した舞台、芝生の中庭など通常の図書館機能に加えて、地域のヒトやコトの縁が生まれる様々な仕掛けを用意しました。

   
 
  片流れ天井に木柱が林立する開架エリア
   
 
  中庭に面する窓際の閲覧コーナー
   
 
  天井の低い落ち着いた個室空間(学習室・静読室など)
   
 
  ヒトやコトの縁が生まれる様々な仕掛け(縁側・中庭・舞台)
   
 

 シンプルでも、地域の素材を活用し地域の交流の場を提供する建築は、他のどこにも無い高畠町だけのかけがえのない施設になると考えます。
多様な現代社会において、求められる建築の役割も変化してきています。
ここで今述べた内容は建築を考える上で、基本的なことで当たり前のことかもしれません。
その当たり前を当たり前にできるように心がけて、今後も建築の役割とは何かを考えながら設計していきたいと思います。

   
 
  ◯ 既存建築の再利用(屋内遊戯場)
   
 
  既存校舎(左)・屋内遊戯場に用途変更した体育館(右)
   
 

 屋内遊戯場は、廃校となった中学校の体育館を再利用しましたが、既存建築を用途変更するにはクリアすべき様々なハードルがありました。
例えば、学校体育館と児童福祉施設(建築基準法上の用途)である屋内遊戯場では建築基準法の適用基準が異なり、排煙設備や各種消防設備など設備機器の新設、その他、防火規定や採光、換気、階段などそれぞれ単体規定の適合、既存校舎と分離するための渡り廊下解体などそれぞれ対応する必要があります。
加えて、空調・電気設備機器の整備や荷重増加に対する耐震補強、老朽化した箇所の各種補修、断熱性能の向上など、建築の構造や性能を変更しなけなければなりません。
このように用途変更するには多くのコストがかかるため、内装のデザインをするにあたっては、無駄の無い効率的な計画が求められました。

   
 
  既存体育館の天井高を利用した開放感あふれる空間
   
 
  木製ルーバーの隙間から柔らかく空間に入る自然光
   
 

 その中で、我々が提案したのは「インフィル」という考え方です。
これは「建築」の中にもう一つの分離した「建築」を構成する考え方、すなわちBox in Boxのイメージで我々が内田洋行の「スマートインフィル」「ウッドインフィル」という家具において、長年にわたって研究開発し、家具レベルで多くの実績を積んできた手法です。
この考え方を空間レベルに適用することで、様々な要求に対する解決策を探りました。

 具体的には、既存の体育館の内側に、インフィルとしてもう一つの新しい建築を設け、それぞれを分離して考えて整理しました。
クラックのある外壁は補修した上で再塗装し、一部漏水している屋根には、カバー工法でもう一枚屋根をかぶせ、防水性能を確保しました。
インフィルによる荷重増加に対しては、既存鉄骨柱・梁に、CT形鋼方式による耐震補強を行い、安全性能を高めた新しい建築として再生させました。

   
 
  断熱材で包み空気層を設けたインフィル建築
   
 
  日射制御用木製ルーバー(左)外光を取り込む新設開口部(右)
   
 

新しい内側の建築は、断熱材で包み空気層を設けることで、空間全体の断熱性能を高めました。
また、既存の窓の位置に合わせて開口部を設けて外光を取り込みつつ、木製ルーバーによる日射制御を行い、室内の光環境を整えています。
開口部と木製ルーバーの間のスペースは、設備機器設置スペースとして有効に活用しました。
既存のキャットウォークも設備のメンテナンス通路としてそのまま生かしています。
内装のデザインは、図書館と同様に地域の材料である「高畠杉」をふんだんに利用し遊具やおもちゃが空間全体に広がります。
既存体育館の天井高さを生かした、開放感あふれる空間は、木材の温かみに包まれ、親子で安心して楽しめるようなデザインとなっています。

   
 
  杉の遊具で遊ぶ様子1
   
 
  杉の遊具で遊ぶ様子2
   
 
  杉の遊具で遊ぶ様子3
   
 

 廃校となって使われていなかった体育館が、「インフィル」という手法で、新しく生まれ変わることができましたが、建築の再利用は、想像以上に大変なことであることがよくわかりました。
コストだけで見れば、建て替えるという選択もあったかもしれません。
しかし、卒業生の思いや、地域の歴史を繋ぐという意味で、建築を再利用する意義があります。
私の古里奈良でも急速に進む少子高齢化に伴い、学校の統廃合が進み、私の母校もすでに統合され学校名も変わり統合された一方の校舎は廃校となり、使われなくなりました。
それは、本当に悲しく何か古里との繋がりを一つ失った気分です。
学校の統廃合は今後も進んでいきます。
今回の建築の再利用方法が、一つの良き事例として、様々な地域で廃校施設が有効に活用されるきっかけになれば嬉しいですね。

   
 
  ◯継続する力
   
 

 雨垂れ石を穿つ
 石に立つ矢
 蟻の思いも天に届く
 為せば成る為さねば成らぬ
 ・・・・

 我々の設計チームはこんな言葉がよく似合います。
ここまでには、思いが届かず実現できなかった案件が数多くありました。
その中でも諦めず、辞めず、へこたれず、しつこく提案をし続けてきました。
まだまだ、私自身実績も少ないですが、継続というただ一つの思いをひたむきに真面目に実践することで着実に結果を出せるとの思いに至りました。
今後も、この思いを胸に地域社会に溶け込む設計・デザイン活動を継続していきたいと思います!

 最後に、本プロジェクトは、プロデューサー・デザイナーである若杉さん(武蔵野美術大学教授)を中心とした強力な設計メンバーの力を合わせた結果です。
設計でエナジードリンクを飲みながら連日徹夜した日々や大雪の中何時間もかけて山形に向かったこと高級温泉宿と見せかけての健康ランドでの打ち上げ、感動的なオープニングセレモニーなど、二つの施設を同時にオープンするということで、大変なことも多々ありましたが、今思い返すと刺激的で面白く充実した日々でした。
この場を借りて高畠の皆さま、チームの皆さまに感謝申し上げます。

   
   
 
  ◯高畠町立図書館
 

場所 :山形県高畠町
開館 :2019年7月開館
用途 :図書館
規模・構造 :地上1階建て/木造+RC造 一部鉄骨造
設計期間 :2017年6月〜2018年3月 設計費:¥32,832,000 
建築工期 :2018年6月〜2019年3月 工事費:¥690,000,000(建築・電気・機械)
木材調達工期 :2017年11月〜2019年2月 木材調達費:¥60,000,000
敷地面積 :7768m2
建築面積 :1664m2
延床面積 :1475m2
工事種別 :新築
建築設計 :パワープレイス/若杉 浩一・小林 健一・坂本 晃彦・鈴木 有吾
      テラダデザイン一級建築士事務所/平手 健一・籠利 貴大
構造設計 :LOW FAT STRUCTURE/横山 太郎・栗原 千絵梨
機械設備設計 :平吹設計事務所/西田 啓
電気設備設計 :エスプロ電気設計/田中 均・毛利 晋・武田 裕輝
家具設計 :藤森泰司アトリエ/藤森 泰司・石井 翔
照明計画 :CHIPS LLC./永島 和宏
サイン計画 :テラダデザイン一級建築士事務所/平手 健一・川田 文香
館名サイン製作:Leaf工房/加成 幸男
ロゴデザイン :パワープレイス/下妻 賢司
木材調達計画 :パワープレイス/谷知 大輔
施工 :羽山総合建設・スズデン・ハギウダ

   
 
  ◯高畠町立屋内遊戯場 もっくる
 

場所 :山形県高畠町
開館 :2019年7月開館
用途 :屋内遊戯施設
規模・構造 :地上2階建て/RC造+鉄骨造
設計期間 :2017年6月〜2018年3月 設計費:¥19,800,000 
建築工期 :2018年6月〜2019年3月 工事費:¥396,000,000(建築・電気・機械)
木材調達工期 :2017年11月〜2019年2月 木材調達費:¥57,000,000
敷地面積 :4376m2
建築面積 :1104m2
延床面積 :1102m2
工事種別 :改修・用途変更(廃校中学校 体育館)
内装設計 :パワープレイス/若杉 浩一・小林 健一・坂本 晃彦・鈴木 有吾
      テラダデザイン一級建築士事務所/平手 健一・籠利 貴大
構造設計 :LOW FAT STRUCTURE/横山 太郎・栗原 千絵梨
機械設備設計 :平吹設計事務所/西田 啓
電気設備設計 :エスプロ電気設計/田中 均・毛利 晋・武田 裕輝
家具設計 :パワープレイス/奥 ひろ子
照明計画 :CHIPS LLC./永島 和宏
サイン計画 :パワープレイス/下妻 賢司
ロゴデザイン :パワープレイス/下妻 賢司
木材調達計画 :パワープレイス/谷知 大輔
施工 :羽山総合建設・東北電化工業・金子建設

   
   
   
   
 

●<ひらて・けんいち> テラダデザイン一級建築士事務所 取締役社長

   
 
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