スギダラツアー2019 in 山形
 

高畠町産材(杉)を使った「新図書館」「屋内遊戯場」の経過

文/菊地 誠

   
 
   
 

本町産の「杉」は、自慢できるほどの「質」ではありませんし、これまで公共施設で使用してきた記録もありません。林業自体も低迷しており、近年では再造林も皆無となっている状況です。このような町が、なぜ公共施設に町産材「杉」を活用してきたのかを報告したいと思います。

 本町の総面積18,026haの内、森林面積は10,422haと総面積の58%を占めております。民有林面積は9,074haで、その中でも「杉」を主体とした人工林の面積は2,816haを占め、31%の割合となっております。(高畠町の水田耕地面積が2,990haなので「田んぼ」と同じぐらいの面積を占めていることになります。)

  この人工林は、昭和20年の終戦から戦後の復興などにより木材の需要が急増し、日本の政策として「植林」を行ってきたものです。おもに広葉樹などの天然林を伐採した跡地や原野に、針葉樹(杉・ヒノキ・松)を中心に植林を行い、木材価格は需要の増加に伴い高額で取引され、「木を植えることは銀行に貯金するよりも価値がある」と言われ全国で「造林ブーム」が起こりました。

 この間、「燃料革命(木炭、薪が中心であった燃料が現在の電気・ガスに替わって行った)」や「木材の輸入自由化」の影響もあり、次第に木材価格が低迷し昭和55年ごろをピークに国産材の価格は落ちこみ、現在では間伐などの保育作業はもちろんのこと、主伐をしても採算がとれず、赤字となる林地が多くなってきました。

 このような背景から、森林への手入れが行き届かず、近年では間伐や主伐がされないまま放置された場所が目立つようになってしまいました。このように荒廃した森林は、公益的な機能が発揮できず、台風の被害を受けやすく、大雨等によって土砂災害を起こしやすくなります。さらには、二酸化炭素を吸収する働きが低下し、温暖化防止機能も低下していきます。

 本町では、このような森林の活用と機能の保全のためにも、平成30年度に予定している大型公共施設建設工事(図書館・遊戯場)で町産材(杉)を活用して行くプロジェクトチームを立ち上げることになりました。

   
 
 
現地確認調査      現地確認調査(熊の被害木)
   
 

通常、本町の工事関係は施設を担当する課が業務を担うことになりますが、初めての試みでもありますので、企画財政課(財政部門)、農林振興課(林業振興部門)、建設課(建築工事指導部門)福祉こども課(遊戯場担当課)、社会教育課(図書館担当課)、で横の連携を密にしながら進めることにしました。

 山林(杉)を伐採してから製品にするまで最低でも9ヶ月程を要します。したがって工事を開始する平成30年度に入ってからの伐採では間に合わない計算となります。プロジェクトチームは建設工事の前の年(平成29年度)に立ち上げ、どのような手法で町産杉を使用していくかの基本的な方向性をまとめました。

  1. 建設で使用する木材(材料)は町産杉の使用10割を目指す。
  2. 伐採から製品までを町主導で行い、図書館と遊戯場の施工業者に材料として支給する。

(建設工事と分離発注)

  1. 館内の木製備品についても出来る限り町産杉を支給し製作してもらう。
  2. 間伐の推進も兼ね、間伐材を積極的に活用する。(間伐材の使用5割以上を目指す)
  3. 地元森林組合(米沢地方森林組合)、町製材業組合を積極的に活用する。

 この5つの方向性で建設が実現できれば、森林の機能保全、間伐の推進、温暖化防止以外にも 通常の建設工事の発注と比較すると、流通経路の短縮、工事経費の減などにより、コスト削減が可能となります。(試算では通常の建築工事で発注した「木材代金」よりも1割ほど安くなります。)

併せて、町の公共施設に、町が材料を手配することから、森林所有者・森林組合・製材業者に適正な価格で、大量に木材を扱える機会を与え、結果、通常の取引価格より高額で売買ができるようになります。

 町のプロジェクトチームに、設計会社、製材業組合、森林組合、NPO法人森林復興支援(木材調達の全般をコーディネート)が加わり、「図書館・遊戯場建設事業木材調達会議」を発足させたのが平成29年9月4日。町産材(杉)を活用して行くための具体的な協議がスタートしました。

   
 
 
調達会議   製材状況確認
   
 

行政の会計手続き上、予算を持たない年度では契約を行ってはいけません。しかし、先に説明したとおり、「杉」を伐採してから製品にするまで最低でも9ヶ月程を要しますので、工事が開始される前の年度より準備が必要となります。したがって、議会で「債務負担行為※5」を議決いただくとともに、平成29年12月15日に町と製材業組合と森林組合で「木材調達に伴う協定書」を締結し、本格的にこの事業に着手いたしました。
協定書の主な内容として、次年度の建設時に町が責任を持って、材料を購入すること。建設が延期や中止になった場合には損害を賠償する。などを盛り込みました。この協定書により、製材業組合と森林組合はリスクを背負うことなく業務に専念できることになります。

月1回〜2回の木材調達会議を重ねながら、
【図書館】平成30年4月10日高畠町木材業組合と建材調達業務委託契約を締結
       期 間:平成30年4月11日から平成31年2月28日
       金 額:60,199,200円
       原木量:720立米

【遊戯場】平成30年4月10日高畠町木材業組合と建材調達業務委託契約を締結
       期 間:平成30年4月11日から平成31年2月28日
       金 額:57,607,200円
       原木量:680立米

 町内の山林8箇所から5,545本を伐採(面積39.5ha)、その内間伐材3,718本(67%)を確保し、目標としていた5割以上を調達することができました。
 この年(平成29年度)は、例年に無い大雪の年でありましたが、作業員皆様の努力のおかげで、伐採・搬出作業も順調に進み、平成30年4月21日で製材所への搬入が完了しました。
 この間、伐採後は3カ所の町内製材所に丸太を搬入し製材を進めてまいりましたが、大雪と同時にマイナス気温が続き、丸太が凍結してしまい、散水し解凍しながらの製材となりました。
 製材組合とは毎月の調達会議において、木取りの確認からトラックへの積込み方法まで細部に渡るまで確認・調整を行い進めてまいりました。

   
 
 
 H30,3,2の雪の状況   散水・解凍・製材の繰り返し
   
   製材は、それぞれの材料(柱、梁、床、壁、家具、備品など)としてカットし、乾燥から加工まで用途ごとで、延べ17業者の皆様の手に渡り、予定の期限まで無事製品として納品をいただきました。
   
 
 
納品状況   納品状況
   
 

 建設工事も順調に進み、遊戯場は令和元年7月26日にオープン。翌27日に図書館をオープンさせることが出来ました。
 遊戯場はオープンから17日の稼働で10,000人の入館を突破し、入場制限をさせていただく 程盛況であります。図書館は21日の稼働で10,000人を突破しており、こちらも大盛況となっております。 ※旧図書館は1日平均40人程度の入館者でした。

 最後に

  昔から、「地元産材を使った建物は、最適な湿度管理をしてくれる。」と言われておりますが、図書館はビックリするほどの最適な吸湿を保ってくれております。本に適した湿度は60%以下と言われておりますが、エアコンがなくても50%から60%を保ってくれております。この町で育った木だからこその恩恵を感じております。

   
   
   
   
 

●<きくち・まこと> 高畠町役場

   
 
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