今、スギダラ天草が熱い!!
 

アマクサーネというお祭りのこと

文/森本千佳

   
 
   
 

「アマクサローネ」は熊本県天草市で年に一度開催されているイベントです。2018年で11回目を迎えました。天草大陶磁器展(こちらは2018年に15回目を迎えました)と同時期開催で、毎年11月3日の文化の日を中心にして連続で5〜6日ほどの期間で開催されています。
アマクサローネのテーマは "理想の生活見本市"。様々な作り手や表現者が一同に集います。陶磁器展が天草の窯を中心にした陶器市であるのに対して、アマクサローネの出展者はそのジャンルはばらばらです。陶磁器の他、写真、活版印刷、本、磁器のボタン、さをり織、絵、イラスト、ガラス…回を追うごとに出展作家さんのジャンルも多岐にわたるようになりました。それに加えて音楽イベントやトークイベント、ダンスパフォーマンスなどの企画を実行委員で立て、アート要素の強いイベントとなっています。もともとは空店舗のふえた商店街を利用していたイベントですが、現在は天草市民センターで開催しています。
私は2013年 、第7回から実行委員に参加しています。私たち夫婦は2013年に天草に移住しました。埼玉から天草に住まいを移すにあたって、天草のことはほぼ何も知りませんでした。海と山がある。これくらいの情報。陶磁器産業が盛んだということもまったく知らず、おじいちゃんおばあちゃんしかいない場所で、文化的なことには縁遠くなって生活をしていくんだなあと思っていました。今から思えば田舎に対するステレオタイプすぎるイメージです。
移住したのが9月。11月にアマクサローネというイベントがあると知って、実行委員長(天草にある窯 丸尾焼の長男金澤佑哉さん 父である現在の当主金澤一弘さんは天草大陶磁器展の実行委員長をされています)とたまたま出会えたことがきっかけで、私たちは夫婦で実行委員をさせてほしいとお願いしました。天草にも面白くてオシャレな若者がいるんだな〜という印象でした。本当に、そのころ田舎に対して私がどう思っていたのかがわかる馬鹿げた感想です。

アマクサローネの実行委員は現在11名、昼間の仕事はばらばらです。今年はどんなアマクサローネにしていきたいのか会議を重ねながら、出展者を募り、同時に実行委員からも出展してほしい作家さんに声をかけ、出展以外のイベントの企画、出展作家さんが決まってからは会場設営の準備、snsでの告知…イベントを開催する上では当たり前すぎる、けれども続けていくにはなかなかしんどい、さまざまな仕事。来場者の皆さんにアマクサローネを楽しみにしていただくためには、楽しみになるような作家さんに出展していただかなければならないし、楽しみになるような作家さんに出展していただくためには、作家さんがきちんと稼げるイベントで無くてはならない。当たり前のことですが、難しい問題です。他県からも出展応募が少しずつ増えてきて、ジャンルもさまざまになりつつあり、少しずつ解消していけているのかなあと思います。

そして、何より、実行委員が実行委員をしていて楽しいのか。
うちわノリではなく、自分が楽しいと思えることに貪欲でいられるか。
私は天草に来て、アマクサローネに参加して、それをつくづく教えてもらったと思います。

過去には石野卓球氏、みうらじゅん氏などをお招きしてイベントを重ねてきました。
また、アマクサローネには、毎年ダンサーの近藤良平さんがいらっしゃいます。平成28年度(第67回)文化庁芸術選奨文部科学大臣賞受賞された、ダンサー・振付家の近藤良平さんはアマクサローネでのみソロダンス公演をされます。あえて言いますが電車通ってなくて、熊本市から車で2時間半かかるこの天草にですよ! 天草が好きだから、近藤さんを呼ぶ実行委員がいて、天草が好きになって、ここでだけソロ公演をされる近藤さんがいます。
”会いたい人がいたら会いに行く。”のではなくて、”会いたい人がいたら呼べばいい。” そう思えるようになりました。東京にいたときには、そういうことは、力とお金のある人がするもんだと思っていました。田舎じゃ出来ないことだと思っていたんです。本当に馬鹿げていますね。そうじゃなくて…愛があれば出来るんだ。

アマクサローネにはここ数年ミシマ社の本屋さんが出現していました。書店に直接本を届ける出版社であるミシマ社。の熱烈なサポーターが実行委員にいたことでミシマ社の本屋さんがアマクサローネに出現、ミシマ社社長の三島さん、営業のみなさんが毎年天草に来てトークイベントをしてくださいました。そしてついに今年、現在日本中で街の小さな本屋が続々と閉店しているなか! 実際に「本屋と活版印刷所」として店舗を構えることになりました。ミシマ社を中心にした本を扱う本屋さんと、活版印刷(1591年に長崎の加津佐から熊本県天草へと活版印刷は伝わりました。そして日本では天草で初めて、イソップ物語が活版印刷されました)の店舗です。…愛のあかしです。

一年に一度のお祭りであるアマクサローネから、日常に広がっていくもの、ことたちがあります。だけどこれらは急にあらわれた成果ではなく、楽しいと思うことを続けてきたら、その楽しさがどんどん発酵して、今こうなってきています。”こうあるべきだ”とか”こうするべきだ”ではなくて、自分が楽しいものに貪欲に進んでいくと、広がっていくものがあり、そしてそれが自然とその場を発酵、活性させていくことになるんだと思います。

天草はとても面白いところですよ。おかしな人がたくさんいます。
それにスギダラの皆さんが「天草が熱い」と思ってくださっているのだから間違いないと思います。土から器が出来、土が発酵し土地を豊かにし、さまざまな樹木が育ち、人がさらに育ててくれるような、そんなイベントにこれからもしていきたいと思います。

是非、アマクサローネにいらしてくださいませませ(さだまさし)

   
   
   
   
 

●<もりもと・ちか> 本屋と活版印刷所

   
 
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