ATELIER MUJI有楽町『木を見て森を見る!』展(前編)
  『木をみて森を見る!』展ができるまで

文 / 鈴木潤子

   
 
   
 

みなさん、こんにちは。
木や森を愛する日本各地の有志たちが有楽町へ集結し、熱き想いが尽きぬマグマのように炸裂した希有な展覧会『木をみて森を見る!』展はご覧いただけましたでしょうか?最初は何もないホワイトキューブ(白い展示空間)からスタートし、参加者と一緒に床材を全面に敷き詰めるワークショップを皮切りに、木や森が持つ無限の可能性を体感できる怒濤の超参加型ワークショップを千本ノック並みに開催。無印良品有楽町店のフィナーレを飾るにふさわしい展覧会でした。アイデアから実施まで、ちょっぴり風変わりな展覧会の裏側について、少しお時間をいただいてご紹介したいと思います。

   
 
   
 
   
 
  オープン初日の朝は、積み上げた木材とテキストだけの会場。数々のワークショップ実施の経過により、更地がやがて人の手を経て杉の森になるように成長し変身を遂げた、有機的な展覧会。
   
 
  シニアキュレーターとは?
 

無印良品有楽町店のギャラリースペース、ATELIER MUJIで開催する展覧会の年間計画を提案し、各企画を実施することが、キュレーターとしての私の役割です。年間多いときは8本、平均6本の展覧会をこれまで開催してきました。シニア、については、チームの中ではやや年増、というご理解でよろしいかと。そんな私は、有楽町店閉店に際して、どんな展覧会がふさわしいのだろうか、と考えていました。

   
 
  一文字違いで大違い
 

ちょっと話題がそれますが、職業柄、気になる言葉が「展示会」と「展覧会」。NHKのニュースでさえ、使い方が曖昧な気がしてなりません。いやいや、こんな細かいことが気になるのは自分だけ?と、己の器の狭さに切なくなることもしばしばですが、どうしても気になります。あくまで個人的な見解ですが、商品やサービスを紹介して売り上げにつなげる販売目的で開催するのが展示会。たいてい値段は売り手が決めます。では、展覧会って何でしょう。ATELIER MUJIは展示会ではなく、展覧会を開催しています。モノが持つアウラだけでなく、言語化や可視化されていない大事なコト、時に社会批評性をも含みながら、クリエイターやお客様が展覧会という場を介し、ささやかでも新しい価値を創造できる可能性を目指しています。

   
 
   
 
  完成した展示空間。目に見える光景には収まらないぐらい、ここにはたくさんの方々の時間と想いが満ちていました。心なしか、ここ一画だけその頃は温度が高かった気がします。
   
 
  もったいない精神で、プライスレスという荒野を目指す
 

ATELIER MUJIのある有楽町店は世界の旗艦店で、7000アイテムある商品がほぼ揃い、毎月世界中から数10万人のお客様が来店されます。毎日がお祭りのような店鋪でのお買い物する楽しみに加え、さらに展示会で消費をあおるのではなく、ATELIER MUJIは多様な価値観や体験にふれることができる展覧会を通して、思いもよらない出会いやつながりが生まれたら面白いのではないかな、と期待しています。入場無料=ただ=価値がない、のではなく、むしろ貨幣価値では測ることができない何か=プライスレスな価値がある空間と活動は、お客様が価値を決めてくださるのです。また、MUJIでは、数十円のお菓子から数千万円の家まで、大勢のスタッフやさまざまな外部協力者の方々が、感じ良いくらしを目指して商いに日々全力を尽くしています。なので、1円たりとも無駄にはできません。展覧会に原価計算は似合いませんが、決まった予算の中で効果を最大化する智恵と努力が腕のみせどころです。これまでの経験値や綿密なリサーチに加え、日本が世界に誇る“もったいない精神”を発揮して、施工設営ではなるべく無駄やゴミがでないよう工夫を楽しんでいます。

   
 
  施工設営もDIY。自給自足の壁面シート貼り作業風景。予算を鑑みて無駄が出ないように綿密にシート出力のデザインを工夫した結果、現場で壁面シート貼り作業の難易度が急上昇。が、半端ない現場力でコイヤの皆さんやATELIERスタッフが知恵をひねり息を合わせた設営中の、涙ぐましい背中が愛おしい貴重な一枚。
   
 
  タイトルは、みんなが集う旗印
 

タイトルを考えるのもキュレーターの仕事ですが、『木を見て森を見る!』は、私の造語です。木や森にまつわりつつ少々ネガティブな意味合いを含む「木を見て森をみず」という有名な慣用句の「ず」を「る」と一文字変えてみると、ぐっと陽がさすイメージに。さらに「!」には、今回は多大なご協力をいただいたコイヤのみなさんの熱気と気合いと団結力を込めました。名は体を表すもの、展覧会にとってタイトルはとても大切です。この名のもとに、人々が集う大事な旗印なのです。

   
 
  文字どうり、みんなでつくる展覧会
 

展示プランについては、木が持つアクセサブルな特性を活かして老若男女、世代を越えて参加したくなるように、そして参加できるようにすること。加えて何よりも、濃いや=コイヤのみなさんのチャーミングさをお客様とも共有できたら何より楽しいな、という2つのポイントがありました。通常の展覧会は、施工設営をして完成した空間から会期がスタートしますが、むしろ今回はゼロからお客様と一緒に空間を作って行こう、という、逆の発想をはじめて実現してみました。この実験的な企画のために綿密な打ち合せの実施を行い、関係者のみなさんにはトークやワークショップのプランをご提案いただき、予算やスケジュール、段取りなど事前の準備を念入りにお願いしたものの、キュレーターである私も実際にどうなるのか、正直出たとこ勝負のミステリーツアーのような展覧会でした。良くも悪くも想定外のことしか起こらない現場、閉店にむけた環境変化など、激流を筏でくだるスリルとサスペンス溢れる日々を、関係者みなさんの愛と木合い(敢えて木)とチームワークで乗り越えた気がします。何よりも、参加してくださったお客様が日本の木や森を巡る実情や課題について自分ごととしてかかわってくださったことが何よりの財産になりました。

   
 
 
     
 
  個性的なワークショップは、コイヤ皆さんの真骨頂。子供から年配の方まで、お客様の真剣な横顔、笑顔が印象的でした。トークでは木にまつわる実践的なお話に、司会をしている私も大変勉強になりました。そしてお客様から「みなさんのホームグラウンドである杉の産地に行って見たい!」との声多数。
   
 
  そして展覧会は続くAnd Our exhibitions goes on
 

終わりは始まり、と申します。またいつか、みなさまと展覧会でお目にかかれる熱い日々を愉しみにしています。4月4日から始動するATELIER MUJI GINZAにもご期待下さい。有楽町では逢えませんが、柳の揺れる銀座でお待ちしています。

   
 
そして、最後に関わってくださった全ての方がた(読者のみなさまも)へ。
本展にお付き合いいただき本当にありがとうございました。
きっと地球のどこかで今日も頑張っていらっしゃると存じます。

May the tree be with you.
木とともにあらんことを。
   
   
   
   
 

●<すずき・じゅんこ> ATELIER MUJI シニアキュレーター

   
 
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