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縄文時代、日本列島に暮らした縄文人たちの目に映る山野の風景はどのようなものだったのでしょう。まだ、本格的な農耕は行われていない時代、原始の自然環境は現代と大きく異なると想像されます。そんな時代の森を、実際に目にすることができる場所があります。島根県の中ほどにそびえる三瓶山。古代出雲の神話にも登場する山のふもとに、巨大なスギが立ち並ぶ縄文時代の森が埋もれています。 縄文時代の森は、のどかな里山の風景の一角にあります。地上の風景からは、地下に眠る森の姿は想像もつきません。三瓶小豆原埋没林公園として整備された地下展示室に足を踏み入れると、そこは異空間。約4000年前(縄文時代後期)のスギの巨木が地底にそびえ立ちます。大きなものでは、根回り周が10m前後、幹の高さは最大12mに達します。その太さから、生育時の樹高は40〜50mと推定される巨木が互いにせめぎ合うように密生していた森の一部を目の当たりにできます。 巨木を見上げながら太古の森の風景を想像すると、その壮大さに圧倒されそうな気がします。太い枝が互いに絡み合うように伸び、茂る葉によって日の光が届かない暗い空間が広がっていたのでしょう。現代の日本列島では見ることができない、原始の森の姿です。 約4000年前の噴火では、溶岩の噴出と火砕流の発生を繰り返しました。厚く堆積した火山灰が水を含むと、今度は土石流となって谷を流れ下りました。三瓶山の北麓では大規模な土石流が発生し、その土砂が森を埋めたのです。 地底の森を発掘してみると、直立する巨木の根元に、土石流によってなぎ倒された巨木が絡みつくように折り重なっていました。不思議なことに、倒木が絡みついているのは谷の下流側。隣の谷を流れた土石流があふれ、合流点から逆流してきたことがわかりました。逆流した土石流が勢いを失ったことで、この場所に生えていた木々は倒されずに地中に埋もれたのです。 縄文時代の木々が根を張る当時の地面には、落ち葉がそのまま残り、昆虫の遺骸や地面に生えていたコケ残されています。火山噴火のおかげで、縄文時代の森の生態系がほぼそのまま残されたのです。 写真は1983年に行われた水田工事の時に撮影されたものでした。工事中に出現した立木は単なる障害物として取り除かれ、関係者以外には知られることないまま、時が過ぎていました。しかし、三瓶山の火山活動史を研究していた松井氏は、写真の立木から火山噴火で埋もれた森の存在を直感したのです。 三瓶小豆原埋没林公園 |
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里山の風景が広がる一角に、三瓶小豆原埋没林がある。中央の丸い構造物が展示室。 | ||||||||||||||||
地下展示室にそびえるスギの巨木。 | ||||||||||||||||
1998年に行われた発掘調査で最初に発見された立木の頂部と発見者の松井整司氏。 | ||||||||||||||||
発掘調査中の風景。火山灰中に立木が埋もれている。 | ||||||||||||||||
立木の周囲に絡みつく倒木。倒木も大半が直径1〜2mの大径木。 | ||||||||||||||||
1983年の工事中に出現したスギの巨木。 | ||||||||||||||||
三瓶山遠景(大田市川合町から撮影) | ||||||||||||||||
●<なかむら・ただし> 島根県立三瓶自然館 |
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