特集  日南市子育て支援センター 『ことこと』 オープン!
  『ことこと』のプロジェクトで学んだコト

文 / 小林健一

   
 
   
 

パワープレイスの小林です。
日南市子育て支援センター『ことこと』オープンおめでとうございます!!
約2年間をかけて企画、設計から施工までを日南市のこども課、これから施設を使っていく市民の方々、施工会社の皆様、地元の設計事務所やおもちゃや家具を作ってくれる工場の仲間、まちづくりを支援するメンバーを巻き込みなんとか完成まで辿りつきました。通常の内装の工事案件ではここまで時間をかけることはあまりありませんでした。
しかも、今回は新築のビルにテナントとして日南市が入居するというスタイルで、しかもスケルトン状態で引き渡され、設備をひっくるめてテナント工事にして下さい。という珍しいケースでした。
通常僕らは内装工事をすることは多いが、トイレや空調機や給湯器など設備設計まではやることはほとんどありませんでした、しかも遠隔地で。。設備設計をしてくれるパートナー探しから始まり、実施設計業務、設計監理、公共工事特有の様々な必要書類の提出など未経験の領域ばかりでした。    そして、いよいよ施工会社も決まり、工事着工!!と思いきや、テナント工事で入るのに本体工事が遅れ、待てど暮らせと、一向に建物ができあがらない。待ちの時間がとても長く感じられました。
あと1月余裕があればな〜という嘆息混じりの言葉が何度聞かれたことか。。

そんな状況の中、4月8日にグランドオープン無事に迎えることができました。ご尽力いただいた関係者の皆様に感謝を申し上げたいと思います。    
皆様、ありがとうございました!!

   
 
  この状態から工事スタートです
   
  設計施工の話はこれくらいにして今回感じたことを少し書きたいと思います。
   
 
  【継続する力】
 

今回2年間をかけて設計を担当させていただいてきた日南市の子育て支援センターは、私は建築的なこと、インテリアデザインを主にやって、奥ちゃんは家具やおもちゃ、グラフィックのデザインを担当しました。
前述のように長い期間をかけ、問題・課題を乗り越え、いよいよ完成。3月の末、竣工検査を迎えました。その時現場に佇み、私が率直に感じたのは「その場の空気を作っていたのは明らかに家具とおもちゃとグラフィックだ」という感覚でした。
奥ちゃんがコツコツとデザインして家具屋さんと打ち合わせして、お金が無くて(予算がなくて)こども課の先生と悩み、作ってくれる人に頼み混んで積み上げていったおもちゃたち。17回を重ねたワークショップで市民の皆さん、ボランティアの皆さんとつくりあげたおもちゃとその想い、その積み上げが、場を作っていました。奥ちゃんが社内の勉強会で言っていた、誰かの為に丁寧に、コツコツと続けてきた事の結果が現れていました。
これは間違いなく適わない、圧倒的な時間と思いの連続が成せる技だと思いました。まるで一滴一滴の水の滴が岩を砕くような、勢いは無いがじわじわと周りを巻き込んで、大きな力を発揮するような感覚を実感しました。
明らかにあのおもちゃたちは市役所のこども課の先生やお母さんや子供たちの想いを背負い、作り手の職人さんに伝わり、その作り手の想いを引っさげて、現場までやってきた。大きな波にとなって。

オープンニングセレモニーの後に子供たちがどっと流れ込んでくる、芋掘りの芋を競うように引っ張り出すお姉ちゃん、自慢げに鰹を釣り上げる小さな子、それは取りすぎだろう、というくらいカゴにキンカンと日向夏を詰め込む兄弟達、たまごプールですっ転ぶ男の子、それをベンチで眺めるお母さん、みんなひゃーひゃー言いながら楽しんでいました。そんな光景をつくりあげていたのです。

   
 
   
 
   
 
   
 
  撮影 izaki kousuke
   
 
  【日南の誇りと自慢の場所】
 

ある市の職員の方は「今の赤ちゃん、子供達は間違いなく、この施設を見て、触れて、飫肥杉の良さを感じることができるでしょう。ほんの小さなときから体験できる。そして、『ことこと』のコトを自慢するだろうと思う。僕らが小さい時は飫肥杉を自慢する場所はなかった。そういう施設ができました!」と言ってくれました。
また、完成検査の後に北郷の集成材を作ってくれた製材所の人がふらっと現場に現れ、「自分達は建具屋に頼まれて集成材を作って納品したけれどもどれがどうやって使われるか見に来また! おおぉ〜こんな感じに使われるのか!飫肥杉でこんなこともできるんだ!すごい!」と連発して「こんなことなら節なしで作っておけばよかった〜」などと興奮して帰っていきましました。製材所の人のとって自慢の場所になったのだと思います。

『ことこと』は飫肥杉で包まれ、オール日南で作られた優しくて懐かしくて暖かい場所になっていいます。単なる形や場所をつくっただけではなく、つくる人や関わってきてくれた人の気持ちが表れている場所になっていると思います。
それは今回のデザインが作品をつくるのではなく、ただ、誰かのために思いを込めて尽くすという連続だったからではないかと思います。

デザインの可能性、デザインの力を身を持って体感した貴重なプロジェクトでした。
最後に
施設をつくるにあたり不慣れな業務の中、本当にご尽力いただいた、日南市こども課の高妻さん、藤井先生、近藤先生、そして森山さんにあらためて感謝を述べたいと思います。
お疲れ様でした、ありがとうございました。
気持ちのこもった本当にすごい行政の方々です

   
 
  【おまけ】
 

裏うんちくをひとつだけ。

   
 
   
 
   
 

今回施設のまん中にはあかちゃん広場というスペースがあり、そこを囲う間仕切りに飫肥杉の丸棒を使っています。ただ、単に棒を並べただけでは無く、日本音響エンジニアリング(株) (←大きな音楽ホールの音響設計をするようなすごい会社です)の「柱状拡散体」という技術を使っています。簡単にいうと、森の中の音の環境を再現するように大小の丸棒を、緻密に計算してランダム配置するというものです。こうすることによって音は乱反射して人の耳に届き、大きな音も小さな音も心地良く、つぶさに聞こえるというモノです。今回は飫肥杉32φ、45φ、60Φの3種類約500本を2400Hの高さで並べています。 おびすぎの森と呼んでいました。
通常はナラやタモの堅木でやるそうですが、柔らかい杉でも、効果は十分。音響測定もしましたが、小さめのコンサートホールくらいの性能が出ているそうです。それよりも、反る、割れる可能性のある杉材をここまで正確に組み立てたていた日南の家具屋さんに設計の担当者の方はしきりに驚いていました。
これであかちゃんが少しくらい大きな声で鳴いても騒いでも大丈夫です。また、運営時間外にミニコンサートや読み聞かさせ、勉強会などにも使いやすい空間になっています。ここにも日南の誇りがひとつ入っています。
是非一度ご体験ください。

   
 
 

工場検査

日南の技術で作られたユニット ユニット式で現場組立
   
   
   
   
  ●<こばやし・けんいち> パワープレイス株式会社
   
 
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