連載

 
新・つれづれ杉話 第3回 「小町のつぶやき」
文/写真 長町美和子
日常の中で感じた杉について語るエッセイ。杉を通して日本の文化がほのかに香ってきます。
 


 

 

今月の一枚。

 

*話の内容に関係なく適当な写真をアップするという身勝手なコーナーです。

今月は日向特集ということなので、九州を意識してみました。
昨年秋に鹿児島に出張した時、撮った写真です。九州は交通標語までのんびりしてていいわぁ。

   
 

 
小町のつぶやき「8割はみんなの力で」
 

「建築はデザインと違ってアバウト」「僕がきちっとおさえるのは大好きな1割と大嫌いな1割だけで、それ以外の判断は任せてしまっていい。建築は8割がチームプレイの部分」
 というのは、『にほんの建築家 伊東豊雄・観察記』の中の伊東さんの言葉。大きな建築ばかりでなく家具やカップやボールペンまでデザインする彼ならではの、モノづくり全体を俯瞰したセリフがいたるところに散りばめられている。
 細密な部分まで自分の意のままにならないと気が済まない、そんな神経質な人を想像していたら大違いだった。特に親近感を抱いたのは、彼が熊本県八代市のある町おこしのために力を尽くしていたというくだり。
 さびれていく商店街をどうにか復興させようと、一人の店主が立ち上がり、知人を通して伊東さんに直に相談を持ちかける。地域の人を巻き込んで活動が盛り上がっていく。伊東さんを取り囲む地元の人の輪、深夜まで続く飲み会、役所の人たちまで巻き込んで「八代まちづくりコンペ」を開く……なんだかどこかで見たようなシーンじゃありませんか。
 そーです、南雲さんと日向の関係に非常によく似てるのです。
 南雲さんと伊東さんの共通点は、人ととことん付き合える人ってことかな。そして、自分の意のままにコトを進めていくのではなくて、「8割の部分」をチームプレイに託せる余裕があること。それから、日向も八代も、やっぱり九州人ってのは、物事に取り組んでいく時の柔軟さ、熱さがおんなじだ。
 クライアントと直接やりとりすればいいプロダクトや住宅と比べて、公共の場のデザイン・設計というのは、湧いて出てくる問題、対処すべき事項の多さが格段に違う。理想と現実の差、関係者それぞれの思惑や立場の差。いろんなものを乗り越えて(うまくかわして)、いかにみんなが満足できるものをつくっていけるか、そこが重要だ。関わる人みんなが夢中になれる、ってことだよね。南雲さんの懐の深さ、デカさはそういう経験の豊富さから来ているのかもしれない。
 デザインも建築も、ふつうの仕事も、人間関係も、親子も夫婦も目の前の細事にばかりこだわっていちゃいかんのだ!  
 だから、南雲さんがアバウトでも、誤字が多くても、忘れ物が多くても、何度お財布をなくしても、マフラーをなくしても、東京駅の真ん前で道に迷う人であっても、ゆるしてあげましょう。
 「月刊杉」一周年、おめでとう! 「月刊ひゅうが」の誕生おめでとう! 日向の駅舎完成が楽しみです。

 


   
  <ながまち・みわこ>ライター
1965年横浜生まれ。ムサ美の造形学部でインテリアデザインを専攻。雑誌編集者を経て97年にライターとして独立。
建築、デザイン、 暮らしの垣根を越えて執筆活動を展開中。特に日本の風土や暮らしが育んだモノやかたちに興味あり
 
 
 
   
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