特集  Open MUJI 有楽町 2016
  つなげる・つながる

文/写真  林 高平

   
 
 
 

Open MUJI 有楽町 が終了し、1ヶ月が経ちました。まずは、イベントに参加いただいた方・出店いただいた方・運営スタッフ・見守ってくださった方、みなさまに御礼を申し上げます。
本当にありがとうございました。

「東京丸の内のアスファルトだらけの街に、屋台が並ぶ風景が見たい!」 最初はこんな漠然とした気持ちがあったと記憶しています。何かやりたい、というより、まずは自分自身実現したい風景が目に浮かんでいた様です。今回、とても難関な高い山を自分たちで作り、みなさまの協力のおかげでその山を越えていったわけですが、全て終わった瞬間、自分自身の考えや意識がその日以来はっきり変化した事を、実感していました。「やってきた事」「やりたい事」「やるべき事」この全てがつながった瞬間でもありました。
成長なのか?レベルアップなのか?大人になったのか?は、よくわかりません。(こういうととても大げさなのですが、イメージは、昔「ブッダ」で読んだ、悟りを開いて大声で喜び叫んでいるシッダルタのような感覚です。)
この体験を、自分自身の経験とイベントの経緯を交えて書いていければと思っております。だいぶ遡りますが、どうかお付き合いください。

   
 
  第1期『学生時代』 建築をまなぶ
   
 

私は学生時代、父の影響もあり建築が好きで、とある大学の建築学科に入りました。そこでは、空間の魅力・構造美・歴史・設計・デザインと様々な視点で建築を分析して、課題に追われる日々でした。とにかく充実していて楽しい毎日を過ごしていたわけですが、大学院にいく頃、一つ違和感を持ち始めます。現代アートのようなある建築を、みんなで素晴らしい!と院生室で評価をして盛り上がっていた風景を目の前で見たのです。
「それは、アートとして素晴らしいのか?本当に、建築としていいものなのか?そこに人の動きはイメージできているのか?」
という思いがまず一番に浮かびました。
ここで、第一のモヤモヤが発生します。それはもう、濃霧です。
建築ほどいろいろなアプローチで評価される分野はそうそう無いと思います。ですが、ここで出来たモヤモヤをきっかけに、自分が目指す建築では、人の動きを作っていき、そこでの活動がイメージできるものを作ることに全力をかけてきました。
最終的に卒業修士設計では、「日本の高齢者は、まだまだ元気です。」という一文から始まる、設計にも関わらず、世代間の交流という人をテーマにした話を重点的に説いたものに仕上がりました。(当時の自分としては大満足の内容でした)

「設計なのに、設計をしない」
「デザインってなんだろう」
「人の動きや活動をイメージできるデザインってなんだ」

このような経験から生まれた3つのモヤモヤは、自然と進む道にも大きく影響しています。

   
 
  第2期『無印良品入社』 インテリアアドバイザーとしてはたらく
   
 

一つ目のモヤモヤが発生して以来、自分が選んだ道は長年学んだ建築以外の道を行くことでした。別に建築が嫌いになったわけではないのですが、やはり漠然ともっと、人の動きが目に見えてくるものを形にしたいな、という思いからでした。
そこで出会ったのが、当時自転車担当としてバイトをしていた、無印良品でインテリアアドバイザー(以下、IA)という職種があるよ!ということを聞いたことでした。当時まだ、全国に20名程度の人数しかおらず、規模もそれほど大きなものではありませんでした。
どうやらこの人たちは、「インテリアに特化した専門販売員で、お客さまと会話をして、最良のくらしを導いて提案をする」という事が仕事らしい。「対話をする事で、実際にくらしも感想として声を届けてくれる」らしい。「長いお付き合いになる」と。
「無印良品にそんな職種があるんだ!なんだ、その楽しそうな仕事は!」という事が第一に思いました。さらに、「この仕事は、可能性は無限なんじゃないか」という事が次に浮かびます。
無印良品の感じ良いくらしを考えぬいて生み出された汎用性のある商品に囲まれて、その方のくらしを対話によって分析し、くらしの中の人の動きを提案する楽しさは、建築や販売やデザインという分野を超えて、絶対に必要な仕事であると直感的に思ったのです。
そして迷わずIAを目指し、この職種に無事なれたのですが、ここで、第二のモヤモヤが。

「感じ良いくらしってなんだろう」
「人のくらしは、どうすれば美しくなるのだろう」
「無印良品でIAは、何をするべきなのだろう」

無印良品に関われば関わるほど増してくるその奥深さと相まって、モヤも深くなるばかりです。

   
 
  第3期『ミラノサローネ』 自分たちのやるべきことを探す
   
 

IAで様々なプロジェクトを進めるにつれ、次第に視察にも行く機会もいただけるようになってきました。その転機の一つが、世界最大級の家具展示会である、ミラノサローネへの出張です。
当初の目的は、世界の最先端のデザイン・インテリアの集結するこの環境で、販売部として業界の動向を敏感にリサーチして、普段の業務内容のブラッシュアップに生かしなさいという目的でした。
そこで最も難しかったのが、販売部という立場であったこと。そんな中見てきたものは、家具だけでなく、「初めての地で、純粋に感動したものは何か」というものでした。
海外という視覚の情報しかない状況で、最も感動したポイントというのは、やはり人の動きでした。
日本での風景とは違い、そこでは想い想いにくつろぎ、囲み、団欒をしているのです。うちからでる、理性的な満足を目的に生まれた風景でした。これは日本でも、無印良品でも作れる風景なのではないか!
そう思ってから、とにかく悩みに悩みましたが、自分たちの目指すべきことは商品作りでもデザインでもなく、

「アクティビティデザイン」
「思わず◯◯したくなる仕掛けをつくる」

というポイントでした。僕らが今まで良質なくらしで考えていたこと。それは、お客様に無印良品のコンセプトを伝えて、最良のくらしを提案をするというものです。つまり、無印良品の商品やワケというたくさんの引き出しのなかから選び出し、最良のものをその方だけにつなげて提案することです。きく→選ぶ→提案するという作業です。これは紛れもなく、くらしをよくするために人の動きをデザインしていくという事なのでした。
今まで感じていたモヤモヤに、針ほどに細い光が見えてきた時期です。

   
 
  第4期『内田洋行との協業』 日本の木を使おう
   
 

次に関わったプロジェクトが、内田洋行とともに行った「日本の木をつかおう」プロジェクトです。森や木の現状を見て、今何が起きていて何を伝え、何をするべきなのかを見出すプロジェクトです。
皆様スギダラケのメンバーとつながりはじめたのも、この時期からです。本当に刺激的な方々ばかりです。
その取り組みの中で、限定的ではありますが、国産材の活用について様々な活動をされている方々に会い、生の現場を見に行く機会がありました。いろいろと思う事があったのですが、無印良品の視点から導き出した事は二つあります。
ひとつは、山・製材・家具製造・職人・販売など、森や木にまつわる方々はとにかく熱く!素晴らしい取り組みをされている!ですが、中々消費者までこの取り組みや想いが伝わりきれていないこと。
もうひとつは、伝える方法はメリットを肌で感じてもらうことが大切ということ。
「木を使うと、森は元気になるよ!」「今の森の状況は・・・」という直接的なメッセージだけではなく、生活者目線でメリットを見出し、伝えていく必要があると感じました。
そこで行った着地は、森の循環は、感じ良いくらし、そのひとつとして「食のめぐみ」につながるという伝え方でした。森のことを調べて、食を伝えるという、一見違う分野をつなげるという結果に勇気がいりましたが、誰にも身近なテーマにすることで、肌で森のことを感じてもらうきっかけになったと思っております。

「Aを伝えるためにBをする」
「Bを肌で感じて、よりAを実感してもらう」

何かと何かをつなげることは、新しい視点や取り組みを生むのだな、と自分自身でも気づかされる点が多くありました。
それと同時に、今の木を取り巻く環境で何が起こっているのか。全国でどのような取り組みをされているのか。取り組む意図は何なのか。その重要性に気づき始めた時期でもあります。

   
 
  第5期『Open MUJI 有楽町』 スギダラケクラブと作る、感じ良いくらし
   
 

そして決定的な転機はやはり、皆様とプロジェクトを行ってからです。
無印良品有楽町では改装から1周年を迎え、何か企画を用意することになります。ここで生まれたのは、丸ノ内仲通りに無印良品が飛び出そう、というもの。初めて外に出るため、面白いとは思いながら、企画次第では何の意味もなさないイベントで終わる可能性があるなと危機感を直感的に感じました。

そこでまず思い出したことは、
「Aを伝えるためにBをする」
ということ。
今回の取り組む意味は、何も無印良品の商品を買ってもらうために飛び出すわけではないのです。無印良品が、最良なくらしを提案するために、何を考え、何をすべきかを、生活者目線で皆様に伝えることでした。そこで生まれるコンテンツが、「MUJIが!無印良品が!」と最前面に無印の商品や取り組みが出る必要はないのです。

次に思ったことは
「感じよいくらしってなんだろう」
ということ。
無印良品では、生活者にも生産者にも環境にも配慮した商品をつくり、商いとして持続させる事を「感じよいくらし」と言っています。何よりも、循環して継続していく事を大切にしているのです。
そこですぐに思い浮かんだのは、スギダラケ倶楽部と皆様の活動です。各地域での活動を、全国的に東京で伝えること。アスファルトだらけの街の中に、日本の木でできた屋台を並んでいる!そこで座って子供達が遊んでいる!大人たちもくつろぎ魅力的な地域のものを買い!上京した人は記憶や故郷の物や事に思いを馳せる!
色々な方が集まる東京だからこそ、そういう風景を作りたかったし、無印良品でやる意味もそこにあるのでは。これこそが、今の自分たちにできる事だ!と直感的に思いました。
無印の取り組みとスギダラケの活動がつながった瞬間です。

先に企画を考え、絶対にやりたいという思いから企画を通してから若杉さんに相談したため、若杉さんや皆様に断られてたら大変な事になっていましたが。笑 でも、絶対にやる意味と信念が詰まった物だったため、自信を持ってお願いに行けました。
その後の苦労や後悔はお察しの通りです。

初日に屋台が並び、音が鳴り響き、皆様の出店の活気や来場いただいた方の笑顔は本当に感動しました。それだけで、邪念は全て吹っ飛びました。とにかく、本当にとにかく楽しかった。素晴らしい物をたくさん見れた。そして雨のずぶ濡れの撤去も最高。その後のスギダラの打ち上げも最高。(5分くらいしかいれませんでしたが。)
全てが終わった頃には、晴れ晴れした気持ちでいっぱいでした。

   
 
  『つなげる・つながる』
   
 

5期という形で経験と経緯を書いてきましたが、何が言いたかったかと言いますと、今回のスギダラケのイベントをきっかけに、長年抱えてきたモヤモヤが晴れ、いまの自分にとって、最良のくらしを考えるためにできる事は、『つなげる・つながる』事と気づかしてもらった感謝と感動を伝えたかったのです。
学生時代に「デザインってなんだろう」と考え、無印良品に入り「人の動きを考えるデザイン」を体感し、スギダラケの皆様との取り組みで「つなげていく面白さ」「つながっていく事の大切さ」を学びました。
デザインは、ヒトとヒト、モノとヒト、コトとヒトをつなぐ、接着剤のような物をいい、その接着剤で思いもしない反応を巻き起こす事が出来ると思っております。(今の自分の段階ではですが・・・)
そして今の僕らにできる事はただ一つ、感じ良いくらしの実現のために、人の動きを考えるデザインで「つなげる・つながる」事だけなのです。

今回のイベントをきっかけに、皆様とよりつながる事が出来ました。その後、皆様に取り組みを紹介いただいたり、サンプルを提供いただいたりしており、様々さらにご協力をいただいております。
これから、全国行脚の準備を進めておりますので、どうぞその時はよろしくお願いいたします。

今回のイベントをイベントで終わらせないために次の活動につなげ、イベントを習慣や文化につなげるために、未来へとこの取り組みの大切さをつないでいきます。
どうぞ今後とも、末長くよろしくお願いいたします。

   
 
  左からアベリア、筆者、金井会長、千代田
   
   
   
   
  ●<はやし・こうへい> 株式会社 良品計画 インテリアアドバイザー
無印良品有楽町リニューアルオープン
   
 
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