特集  『木とくらす』 - はたらく、まなぶ -  【良品計画 x 内田洋行】
  杉の長所に注目した素直なモノづくり

文 /写真 寺田幸弘

   
 
 
 
   
 

まず初めに、九州地区で震災に合われた方々へお見舞い申し上げます。一日も早く、日常が取り戻せますことを、心よりお祈りしております。

4月18日から3日間、『木とくらす』 - はたらく、まなぶ - と題して、日本の木(杉)を活用した家具の発表と、木のある感じ良いくらしの提案をさせて頂きました。今回の新製品は、宮崎県産の杉を活用した4つの家具(ユニットシェルフ、ワークデスク、ワークテーブル、ベンチ)です。

   
 
   
 

昨年、3月末より良品計画・パワープレイス・内田洋行の3社は、林野庁の補正予算を受け、「木の暮らしの再生」「豊かな森づくり」を目的に、国産材を活用した家具づくりの課題と解決方法を検討・実施しました(以下、林野庁プロジェクト)。このプロセスは、杉を用いた家具作りへの取組姿勢の確立とメンバー間の絆を深める役に立ちました。

   
 
   
 

本来なら、杉を活用して家具にする場合、杉の欠点をどう克服すればいいかと悩むことになります。例えば、柔らかい杉を天板に使うなら、筆圧によって出来るヘコミや打痕、傷などがつかないように、どうやって表面を硬くしようか検討することになるでしょう。表面を硬くする方法はいくつかあります。でも、それらの方法は、同時に杉の良さ、肌触りや香り、柔らかさ、温かみなどを損ないかねません。良さも無いけど欠点も無い無難な商品を作りかねない、そう考えた私たちは、杉の欠点は欠点として受け入れ、良さをさらに引き立てるモノづくりを心がけました。

また、B to Bビジネスにおいては、購入者=総務部、利用者=全社員という構図から、総務担当者は社員からクレームが来ることを嫌います。なので、汚れたら拭きとれるように、表面を塗装して欲しいと望みがちです。でも、塗装も杉の良さを損ないかねません。

林野庁プロジェクトで改めて分かったこと、それは杉に関わるパイプライン上において、杉は家具材ではなく建材としかみなされていないということでした。私たちが家具材としてのスペックをいくら強要したところで、生産者の負担にしかなりません。であれば、WooD INFILLでプレカット集成材を活用したように、建材としての杉をそのまま家具に応用してしまうのが、一番素直で合理的だと考えたのです。

杉の良さを損なわない、欠点を無理に補わない、そして建材を家具に応用させてもらう。素材を大切にし、生産者に配慮したモノづくり。これは良品計画の基本姿勢でもありますが、内田洋行のメンバーも自然とそう考えるようになり、林野庁プロジェクトのメンバー間で共通認識となっていきました。良品計画の金井会長は、「これがいい」より「これでいい」を目指したいと仰っておられましたが、まさに「杉がいい」ではなく「杉でいい」と考えることで、ある程度の妥協は受け入れなくては、本当に良いものが生まれないと感じました。天板の硬さを杉に求めるなら、今までのスチール製家具と同じ土俵で戦うことになり、最後は価格競争になり、だったらスチール製家具で良いのではという結論になるとも思ったのです。将来的には、杉の良さをまったく損なわずに欠点を補う技術が生まれるかもしれません。でも、今は、これでいいと思うのです。

この考え方は、杉製家具だからこそ出来たものだと思います。杉製家具は昔からありました。でも、ここまで杉が注目され、新たに社会共感価値が付与された今、今までの杉製家具とは異なる新たな市場と捉えています。市場自体が導入期にあると考えています。天板なのに傷つきやすい、クレームを生みそうな状態で市場に投入するなんて、内田洋行の場合、スチール製家具では絶対に社内で企画が通りません。しかし、まだ小さな市場ではクレームが発生しても、幸か不幸かそれほどダメージが大きくならないのです。
だからといって、それで問題が無いとは言えないのも事実です。ですから売り方も変えて行かなくてはならないと考えています。今までのスチール製家具の売り方は、スペックと価格の提示ありきでした。しかし、杉製家具の場合、まずは私たちの考え方に共感を頂くことに専念します。そして杉だからこそ実現できた感じ良さを感じ取って頂く。本来ならスチール製家具もそうすべきなのですが、従来から販売してきた商品の売り方を変えるのは、バイアスが大きく邪魔をしてしまいます。

まずは、杉製家具の市場を作って、販売していく。この活動を通して、地方も良くなり、多くの人びとが気持ち良く働ける、学べる。そんな風になれたらいいなと願っております。
最後になりましたが、林野庁プロジェクトから今回のイベントまで、3社のメンバーは本当によく頑張ってくれました。そして、社外の多くの方々の支えもありました。感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございました。そして、これからもよろしくお願い致します。

   
 
   
 
 
     
 
     
 
   
 
 
     
 
     
   
   
   
  ●<てらだ・ゆきひろ> 株式会社 内田洋行
内田洋行プレスリリース 国産材を活用した法人向けオフィスづくり
   
 
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