特集 祝! ウッドデザイン賞2015受賞
  ウッドキューブとスギダラ

文 / 藤原義一

   
 
 
 

 月刊「杉」への投稿とのお話をいただきましたので、ウッドキューブとスギダラについて思いつくまま書かせていただきます。お付き合いいただければ幸いです。

 これを始めたとき、こんな賞をいただけるようなことになるとは思いもよらなかった。今は、人の縁、共感によるつながりや出会い、とにかくやってみること(それも面白がって)の大切さ、そしてデザインが持つ素晴らしい力を身体一杯に感じている。

 そのきっかけは約1年前(昨年夏)に私が若杉さんと大学卒業以来約33年ぶりに会ったことだ。その変わらないJAZZすきもの会のソウル(≒ここではスギダラ)に共感し、同時に、ほとんど忘れていたものを呼び起こされた。そして、「何か一緒に仕事ができないか」と持ちかけたことに始まる。(JAZZすきもの会と私たちについてはhttp://www.m-sugi.com/114/m-sugi_114_waka.htm参照)
 私はそのとき社内人事異動でデザイン部門に配属となったばかりで、会社の大きな取組みの方向である国産材活用、商業公共建築分野展開に向けた新規デザイン・企画について悩んでいた。というか、従来の延長でない先導的な新たなデザインの取組みをしたいと思っていたが、何にどう悩めばいいのかもわからなかった。私は長年商品開発(主に音の建材)に携わってきたが、工業デザイン、空間デザイン等、所謂(狭義の)デザインについては全くの素人である。(今もそれは同じだが、(広義の)デザインという考え方は多少分かり始めてきたかもしれない。)そんな事情で、何か少しでもヒントがないか、話を訊ける人がいないかと考えたときに思い浮かんだのが若杉さんである。これもたまたまであったが、2〜3年前に音響機器関係のイベントで偶然出会ったJAZZすきもの会の後輩との立ち話で、
  私 :「そう言えば若杉はどうしよっと?内田洋行でデザインやっとぉとぉ?」、
  後輩:「ええ、なんかスギダラケ倶楽部とかいう面白いことやってますよ、ネットで検索すれば出てきますよ。」
と聞き、家に帰ってネットで検索、面白いことやってるなと思ったのと同時に、若杉さん=「内田洋行(文教・オフィス)、デザイナー、スギダラ(国産材(地域材)活用、公共商業建築分野)、面白い、ソウル」が頭にインプットされていたからだ。
 私は改めて「スギダラ、若杉」でネット検索、パワープレイスにたどりつき、電話した。最初、誰かわからなかったようだが(あたりまえだ。約33年ぶりにいきなりなんだから)、
  私   :「・・・・、学生のとき一緒だったすきもの会の藤原です・・」
  若杉さん:「??、あー、ベースの藤原さん?・・いやーぁ、なつかしかぁ、・・・」
ってなことで会ってもらうことになり、うちのデザイン担当を連れて押しかけて行った。そこで卒業後の仕事やスギダラについて、相変わらずのダジャレを交えながら笑いと涙の物語をソウルフルに話してくれた。また、スギダラ化した事務所の中を苦労話も添えて案内してもらった。学生のころ一緒にJAZZやったり、飲んでバカやったりの彼の記憶しかない私は、彼のデザイナーとしての腕とその実績、そしてスギダラに取組む想いに驚いた。そして嬉しかった。「こいつ、今もJAZZだ。」その夜、たまたま北海道からパワープレイスさんに来られていたスギダラメンバーさんや若杉さんチームの若手たち、そして「久し振りに若杉と飲むから」と誘っていたすきもの会の同級生と大いに盛り上がった。そこには私が大好きだったすきもの会と同じ空気感、ノリ、ソウルがあった。スギダラに共感した。会員になった。私は彼に「何か一緒に仕事できないか」と持ちかけ、追って、国産材を活用した公共商業建築向け商品企画、デザイン提案を依頼した。迷いはなかった。
 それからショールーム見学や打合せで等で当社への理解を深めてもらい、約1ヶ月後、そのプレゼンを受けた。これにも驚いた。我々には想いもよらなかった地域材を使った木質ユニット型インフィル空間(ウッドキューブ)で地域と生活者を当社がパートナーとともにつなぐ、繋がりと共感のデザインだ。彼が既に取組んでいるテーマを当社向けにアレンジしたものであったが、これには当社が持つ建材や加工技術、資材調達や営業チャネル、工事部門等のリソースを活かした新しいビジネスの可能性を感じた。私の中に「ウッドキューブ」というデザインが、我々のいろいろな背景や意図、想いを可視化してくれた。同時にスギダラの想いも一杯詰まったデザインでもあった(私もスギダラについてwebで多少は理解を深めていた)。これはいいと思った。やってみようと思った。そしてやることにした。
 そこからウッドデザイン受賞まで約1年、あっという間だった。ことは予想外の展開に発展した。打合せ、討議の結果、まず、試作空間を木育で進めることとし、東京おもちゃ美術館のT館長を紹介してもらった。試作品を高く評価したT館長は、三井不動産さんが計画している“ららぽーと海老名キッズスペース”への提案に結びつけられた。

   
 
  試作品のウッドキューブ
   
  他方、当社営業部門では既に関係があった三井不動産さんの社会・環境部門へ企業林活用の新展開として提案したところであった。ちょうどこの2つの話が1つになって、三井不動産さん2部門の共感を得、進めることとなった。ここからまた更に、とにかくいろいろあったが、多くの人の力により何とか完成、引き渡しができた。
   
 
   
 
  ららぽーと海老名キッズスペース
   
 

 そうこうしている時に社内で応援してくれている部署からウッドデザイン賞情報提供を受け、応募。そして受賞、それも優秀賞。授賞式ではスギダラの人たちダラケ。まったく何が起るか、人のつながりってすごくて面白い。スギダラの人たちも凄スギ。何より、人々を魅了し、共感を呼び、実現に結びつけるデザインの力。
 この間、共同で取組んでいただいた三井不動産さんの皆さん、パワープレイス若杉さんやスタッフの皆さん、東京おもちゃ美術館の皆さん、厳しい納期の中で対応してくれた材料調達、加工先の北海道の皆さん、当部の担当K君はもちろん、社内関連部門で共感して一緒に苦労したり、応援してくれたスタッフ、事業、営業(特に担当Tさん)、工事(同じくT課長)の仲間やその上司。ほんとうに皆さんありがとうございました。

 受賞後、つい先日の土曜日夕方、私は現場の様子を見に行った。三井不動産さんや東京おもちゃ美術館さん、当社営業担当からは、「大変な賑わいで関係者の評価も高い」と聞いていたが、自分の目で確かめたかったのだ。海老名駅から“ららぽーと”に向う多くの人たちの流れとともに店内へ入り、ウッドキューブのある3階へ。左手に同じく東京おもちゃ美術館、パワープレイスさんたちが手がけたウッドエッグの賑わいを見ながら右手へ。その「ウッドキューブ」は人だらけだった。小さな子供連れの家族が楽しそうに遊んだり、くつろいだりしている。めちゃうれしかった。しばらく感動に浸りながら眺めていた。担当のK君に写真を付けてメールした。
  私 「・・やっぱりこれはいい。うれしくなったのでメールした。あんたも喜んでくれ。」
  K君「・・よかったです。この姿が物語ってます。」

   
 
   
 

 ウッドキューブはまだ始まったばかりだ。これからもスギダラとつながっていくと思う。みんながくつろぎ、笑顔になれる木質空間を、素晴らしい仲間とデザインで共に広げていきたい。

   
   
   
   
  ●<ふじわら・よしかず> 大建工業株式会社 開発企画部 部長
   
 
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