特集 祝! ウッドデザイン賞2015受賞
  森と暮らしの未来をつくる

文 / 写真 井上達哉

   
 
 
  「みんなの材木屋」がウッドデザイン賞 最優秀賞を頂きました!
   
 
   
   
  みんなの材木屋は主体的暮らしを作る人を応援する人のための材木屋です。これまで、ほとんどがプロユースだった木材流通を、直接個人のユーザーへ供給する設立した西粟倉・森の学校の新たな挑戦でした。ウッドデザイン賞の受賞にあたって、審査委員会からこんな嬉しいコメントを頂きました。
   
 
   
  木材流通を消費者目線によって再構成し、暮らしの中の木づかいを身近にした先進性ある取り組みである。供給側と消費者とのダイレクトコミュニケーションによって、自分で作る喜びを提案し、新たな市場を拓く試みにつながっている。半完成品型のプロダクツもわかりやすく、ウッドデザイン賞の趣旨を満たす最も優れた活動として評価した。
   
 
   
 

ずっと向き合ってきた林業と市場。その間にいる立場として、ほんとうに遠く感じたし、何度も諦めようと思ったこともありました。それでも、木材流通を変え新しい市場をつくることが、日本の林業の未来になると信じて、村役場や森林組合と協議を続けてきました。どうすれば効率的な素材生産ができるのか?どうすればスムーズに原木調達が可能なのか?
こちらの想いと食い違うことが多く、前進するためとはいえ長年積み重ねてきたことを変えるのは簡単ではないと痛感しました。小さな地域の林業が、経済的に自立していくために僕らが出した答えはすごくシンプルで、原木を高く評価して、付加価値を付けて市場に届けること。だから、林業に変わってもらうのではなくて、自分たちが変わればいいんです。それで、林業が変わるきっかけになればいいと思ってここまでやって来ました。少しずつスタッフと苦労して積み重ねてきたことが評価してもらえて本当に嬉しいです。
2009年に素人ばかりで始めた製材業 
ゼロからスタートした工場で、最初から商品の製造から販売までを手掛ける製造小売のスタイルをとりました。携わるメンバーは全員素人で何もかもが初めて尽くしのスタートでした。

   
 
   
 

当初から一番大事にしてきたのは伝えること。いいモノでも、しっかりと自分たちの想いを伝えられないと、届けることができないと思っていました。まずは、呪文化したギョーカイ用語を素人でもわかる共通言語として変換すること。素人だった僕自身が最初に直面したのは尺貫法でした。頭の中で換算しないといけない…換算と思っている時点で遅いし、新しい規格を考えるにも時間が掛かりました。さらに、ギョーカイ内でも最も厄介なのが木材等級で、とにかく曖昧で、人や地域によって解釈が違っていて、慣れるのにはすごく時間が掛かった覚えがあります。
だから、みんなの材木屋では、思い切って5段階ある木材等級を「節あり・節なし・節だら」の新たなオリジナルの等級を作り、サイズの単位はミリメートルでもなく、センチメートルへと変更。思い切って業界の商慣習を捨てたんです。理解するのに掛ける時間を伝えるために考える時間に充てられるし、呪縛から解放されて気持ちが楽になりました。これは、お薦めです。社内には、「これから国産材であれば何をやってもいい」と言ってあります。

   
 
   
 

新しい市場をつくる最初の商品となったのはユカハリ・タイルです。当時、無垢のフローリングの賃貸マンションがなくて、気持ち良い床の部屋を借りられたらいいのにと思っていて、不動産屋に営業していたんですが取り合ってもらえなくて。欲しい人はいるのに届けられない。だから、置いて敷き詰めるだけで気軽に床をつくれる商品を開発したんです。素人だから生まれた発想だったし、元々、ニーズがあった訳ではなくて、自分たちが欲しいと思える商品だったんです。

   
 
   
 

ヒトテマキットも開発したスタッフが自分で作った木のスプーンやフォークを使った暮らしに憧れて始めようとしたのが、実際には2年も出来ずじまい。もっと、気軽に始められる材料があったらいいのにと思って開発したのがDIYできるヒトテマキットでした。売れるかどうかはやってみないと分からないけど、そんなことよりも、自分たちが欲しいと思う商品やサービスを創っていくことが、とにかく楽しいし面白かったんです。

   
 
   
 

みんなの材木屋は「国産材を使いたい」と思ってもらえるようなモノづくりを目指しています。林業や国産材はまだまだマイナーです。僕のように「林業が好きなんだー」と叫びながら、木材や産地を選んでいる人は少ないし、「国産材を使ってほしいんだ」と叫んでいる声は全然届いてないと思う。だから、もっと多くの人に地域や林業の魅力を伝えたいし、これからは国産材を届けたいと頑張っている産地を応援したいと思っています。みんなの材木屋木材が始まって1年が経ちます。お届けさせてもらっている木材を通じて、森と暮らしが繋がっていく実感が広がっています。僕らにできることは、森と暮らしを丁寧に繋ぐ役割を担うこと。そして、これからの社会に求められる新しい価値観に対応するために、国産材を届けていきたいと思います。

今回の受賞は、西粟倉村全体で取り組んできた林業の六次産業化を進めてきた村役場、森林組合、起業家の全員でいただいた賞だと思っています。本当にありがとうございます。これからも、応援をよろしくお願い致します。

   
   
   
   
  ●<いのうえ・たつや> 株式会社 西粟倉・森の学校 代表取締役社長
   
 
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