隔月連載
  にっぽん飫肥杉仮面ばなし/第6話「ウサギとカメとカメン(上)」

文 河野健一

   
 
 
 

むかしむかし、あるところに、薄着なウサギの「ラビット赤面」くんがいた。ある朝、カメの、仮名「タートルねっ」くんに会った「ラビット赤面」は、ちょっと「(仮)タートルねっ」をからかってやろうと思い、「おはよう!」と挨拶してくるカメくんにこう言った。

「"おはよう"ってのは、おかしくないか? だって、キミはちっとも早くないんだもの」 カメくんは思った。『オヤジギャクかな?』 しかし、カメくんは、そのことには触れずに答えた。「ゆっくり進むのも、悪くないですよ」 ウサくんは、さらに言う。「何言ってるの? 早い者が勝ちさ」

そんな1ヤリトリを繰り返しているうちに、どちらが早いのか、杉山のてっぺんまで駆け比べをすることになった。ウサ男は大声で「"よーいドン!"って言ったらスタートね」などと、オジサンな学校の先生が言うようなことを言った。普段は温厚なカメ吉も、さすがに反論したくなった。いつもは、思ったこともなかなか口に出せない。行動に移せない。

ふと、カメ郎は、思い出した。『そういえば、どこかで聞いたなぁ。普段より少し大胆になって勇気を出したい時は、飫肥杉製の仮面を着けると良い』って。そして、初めて変身した。飫肥杉仮面に。飫肥杉仮面カメに。しかし、「"ドレミファ・ドン!"って言ったら、イントロ流すね?」などと、イマイチ反撃が伝わらず。

さて、この競争の行方は。。。
スピード。あった方が良いのか。ユックリが良いのか。じっくり考え、急ぎスギずとも、スピード感は持つべきなのか。山々に杉の苗を植える人々は、育った杉の山を見られるのは30年、40年、50年先。自分の描いたグランドデザインを見ることができずに、天国へと旅立つかもしれない。

すぐ目に見える成果。すぐに現れる数字という結果。たしかに、それも大事だろう。こんな時代、「いま」という今を生き抜いてゆくためには。でも、自分が去った後の、次の世代に託す「夢」を持つのも必要かもしれない。そのために、しっかりと育もうとする責任と誇り。ウサギとカメ、どちらかが正義で、どちらかが悪者という話でもなさそうだ。

さて、、、
「ウサギとカメとカメン(上)」は、このへんで。
つづきの、(中)とか(下)とかがあるのかも分かりませんが。そんなこと、かめへん。かめへん。あっ、そういえば、あの「ミュータント・タートルズ」の、カメくん・カメ吉・カメ郎も、飫肥杉製の仮面を着けていたような、いないような。

   
 
   
  平成27年9月27日 朝日新聞掲載
   
  第7話「ウサギとカメとカメン(下)」はこちらから
   
   
  ●<かわの・けんいち> 日南市役所 広報担当 / 日南市 飫肥杉課OB / スギダラ飫肥支部 広報宣伝部長・会員番号441
   
 
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