特集 月刊『杉』10周年記念特集
  スギさりし日々が、明日をつなぐ

文 石田紀佳

   
 
 
 

 (近況)2014年の暮れに、裏山の杉の木を手ノコでの伐採をして、今年のはじめに製材所にもっていき、ただいま乾燥中です。
畑小屋の二畳ほどの床にする板です。

 スギについて無知も同然だったわたしが、杉と親しくなったきっかけは、内田みえさんからの原稿依頼でした。
スギで木工品をつくっている人を知らないか、とコンフォルトのスギ特集のお話をいただいて、スギと日本人の関わりに深く興味をもっていったのです。当時、わたしがつきあっていた木工作家の方々(桶屋さん以外は)広葉樹を使う人ばかりで、問い合わせても「スギを使うのは難しい、道具も違う」(*)という返事しかありませんでした。だからダメを承知で九州の木工家山口和弘さんにも、どなたかご存知ありませんか、と電話をしました。
「いやあ、スギを使っている方は、、、いないですねえ。。。」
「やっぱりそうですか、、、」
と話題を変えようとしたら、
「ああーーー」と、小声の山口さんにしては大きな声を出されたのでびっくりしましたら「いますいます、杉の木クラフトさんが!」といわれました。こうして紹介していただいたのが、溝口伸弥さんと洋子さん。おふたりのつくるスギの家具や小物を見たり、お話をうかがい、杉の魅力に気づきました。そしてスギダラ倶楽部に入部して、月刊杉創刊時から連載枠をいただきました。
 連載で、スギを植物として観察し(杉暦)、文学の中での扱われ様を探し(杉と文学)ていくなかで、身近にあって知らずに誤解しているものごとがいかに多いか、を思い知らされました。
 しかしスギに深入りしていくにつれ、わたしなんぞは安易に発言できないな、という分別ができ、今はスギと距離をおいて、月刊杉の連載もお休みしています。でもこの距離感のなかで見えてきたこともあるし、距離といっても、月間杉(スギダラ倶楽部も!)はいつでもオープンなんですよね。スギ並みですが(月並み)、スギダラのみなさんに、出会えた縁に感謝しています。宿命みたいなものかな、と思います。いずれ、距離感の中で見えてきたことを紡いでみたい、そんな日のために、スギ通った(透き通った)まなざしで世界を見るために、うろこをはずしつづけます。

*その後、漆芸から木工の世界を拡げた渡邊浩幸さんと知り合いました。彼は広葉樹も針葉樹も作品作りに使います。

手紡ぎ手織りの雑誌「スピナッツ」に連載している「庭木の恵み」に裏山での杉の伐採の様子を書きました。承諾を得て、ここに転載いたします。(以下spinnuts no.91より)

   
 
   
 
   
   
   
   
  ●<いしだ・のりか> フリーランスキュレ−タ−
1965年京都生まれ、金沢にて小学2年時まで杉の校舎で杉の机と椅子に触れる。
「人と自然とものづくり」をキーワードに「手仕事」を執筆や展覧会企画などで紹介。
著書:「藍から青へ 自然の産物と手工芸」建築資料出版社
巡る庭:http://meguruniwa.blogspot.jp/
『杉暦』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_nori.htm
『小さな杉暦』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_nori2.htm
   
 
Copyright(C) 2005 GEKKAN SUGI all rights reserved