隔月連載
  「ナガスギの日」を目指して その4
文/写真 内田 利恵子
   
 
  「ナガスギの日」を目指して その1
  「ナガスギの日」を目指して その2
  「ナガスギの日」を目指して その3
  「ナガスギの日」を目指して その4
  「ナガスギの日」を目指して その5
   
 
   
 
   
  『実際つながりをつくるナガスギ』
   
 

・・・・前回の報告から半年たった。その間、ナガスギは東京出展という大舞台を経験したり、07号機、08号機が誕生したり、いろんな進展があった。そのもろもろはまたの機会に書かせていただくとして、今回は、このナガスギ商品開発を共にやっている方やら、長く杉に携わってきた人やらの3人展にナガスギを絡めて、月刊杉の原稿を丸投げしてみようと思う。

「三人三様〜三人のつくれる家具展〜」のお三方。原稿の依頼をしたものの、書いてくれるのか疑問だったが、締切きっかりに三人ともが思いのこもった?文面を送ってくれた。しかし、読みにくい。文体がまちまち。しまった・・・・。だけど、それがこの三人を物語っている。ので、このまま掲載させていただくとする。

ナガスギのモデラーで、デザイナー、木工家でもある賀來寿史さん。
ナガスギの商品開発に共に取り組むインハウスデザイナーの筧浩石さん。
スギダラ関西になくてはならない一級建築士でデザイナーの狩野新さん。
たまたま3人の頭文字が「K」であるため3Kと呼んでいる。きつい、汚い、キモチワルイ、の略ではない。
この三人、実は同い年。容姿の違いも激しいが、キャラの違いはもっと激しい。3Kの杉をテーマにした三人展ではナガスギを使い、宴会が何度か催された。入りきれない人が会場に次々とやってき、杉を囲み、杉に囲まれ、緩やかに縁が繋がり広がっていく。何とも不思議な光景。その場を仕掛けた3人の思い。とにかく頑張って、最後まで読み切っていただけるとこれ幸い。では、どうぞ。

   
   
 
  賀來寿史
 

フシダラくらぶの賀來です、はじめましてのかたは、はじめまして。
ほとんどの皆さまにとっては、初めて耳にされるであろうフシダラくらぶの活動につきましては、またの機会をいただくといたしまして、今回は、スギダラ関西のお三人とご一緒させていただいた3K展について、ワタクシ的視点からお話しさせていただきます…

そもそも、内田さん、狩野さんとは、スギダラ発足以前から多少のご縁があった(狩野さんとは、同時代を木工家ということにこだわり生き抜いた同志とも思える間柄だと勝手に思ってますし、永遠の28歳の内田さんが可愛かった頃も知っています…笑)のですが、ワタクシとしては、個人の家具制作活動レベルで杉を使っても、山の根本的な問題は解決できないというアンチスギダラのポジションを取っていました…そんな中、木でモノをつくるという活動の中で、たまたま出会ってしまった杉のヌキ板とホームセンターで買える大工道具でつくることができる「つくれる家具」というコンテンツを通じ、また、内田さんと筧さんが取り組んでいるナガスギの試作制作担当として、なんだか巻き込まれ的に、吉野や杉、内田さん、筧さん、狩野さんと否が応でも関わらせていただく機会が増えて困っています…笑

そんな中、なにがきっかけかすっかり忘れてしまいましたが、3K で展示をするということになり、自分の出展はいつもの「つくれる家具」でいいからと呑気に構えるかわりに、筧さんのアイディアの具現化をお手伝いさせていただくことになりました。
筧さんは、いつも人と人の間に立ってバランスを取るようなポジションであまり主張をされないのですが、そんな筧さんのアイディアは、杉の角材の四角くい枠を組み合わせて椅子にしたいというもので、構造もへったくれもないのですが、発想としてあまりにも素直なので、なんとかつくりながら座れるようにできないかなと…めんどくさくなってきたので、あとは筧さんがまとめます…つづく

   
 
   
   
 
 

筧浩石

 

つづき…

スギダラケに巻き込まれて困っているアンチスギダラの賀來さんより引き続きまして、賀來さんの杉のヌキ板で製作される「つくれる家具」の世界に魅了されたスギダラメンバーの筧(カケイ)です。

賀來さんとは、ここ、Morizo-さんのyamamachi galleryでの彼の個展で出会いました。そのヌキ板と呼ばれる90mm幅程度、15mm厚み程度の杉板とノコギリから生まれるシンプルなデザインのチェアやテーブルたち。そして、不思議にしっくりとくる掛け心地。乾燥もしていない生の木の板でつくられた荒々しさの中に、とても繊細なセンスが感じられる家具。何か、どうしても彼に会いたくなり、3度ほど通ってやっと出会えました。

感動の初対面。人が座るというコト、木とは、日本の森林の問題、家具の歴史…
予想に反しての、いきなりのハイテンションからの高音質トーク!!!そして、止まらない!!!そして、ノコギリの挽き方と実演&手ほどき。

圧倒されながらも、「つくれる家具」から「つながる、生まれるコト」、そして、家具つくりへの熱い魂にも魅了されました。

その後、狩野さんや内田さんとは古くからのご友人であったこともあり内田さんはじめ、元Morizo-坂田はん、川上村の鳥居さんや現グリーンマムの谷知さんらとのナガスギの研究開発ワーク。
そして、今回、狩野さんとの3人で、木が向いたら結集するという、ゆるやかな「デザインチーム3K」としての「つくれる家具展」につながっていきます。

前置きがナガスギですが、わたしの「つくれる家具」は「枠でわくわく」。吉野杉の30mm角棒で300mm角程度の枠をつくって、チェーンのように組まれたチェアです。一見、ガラクタのようですが、チェアになるので自由に組んでみてね!という展示。(しかし、組んでいるときに指を挟んで出血)
いろんな形が生まれましたが、安定するのは賀來さん直伝の組み方!2つの枠で脚部を形成し、残りの枠で座面を構成しつつ、枠の形状から座る人の荷重が脚部にかかり組み合っていないのにシッカリチェアの機能が生まれます。

この組み方は、私の発想とは全く反対の発想。というか、人間工学そのもの。賀來さんのおかげでチェアの機能をいただけました。とても勉強になります。

スギダラでの狩野さんとの出会い、そして、アンチスギダラの賀來さんとつながり、内田さんのおかげで3K展。
ひとりでは出会えない、ものすごい方々との出会い!!!大きな刺激をいただきあれもこれも、生えてきそうです(^_-)今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

   
 
   
  ということで、狩野さん!
   
   
 
 

狩野新

  『カクさんについて書くカノウ』

6月20日から28日まで、大阪のやままちギャラリーで開催された「3Kによるつくれる家具展」。おかげさまで、たくさんの方々にご覧いただき、無事に終えることができた。この展覧会の会場の主である大阪の内田さん、そして筧さんはスギダラではすっかり常連であるので、あえて、賀來さんのことを書こうと思う。

思えば長い付き合いで、かれこれ15年くらいになるだろうか。
僕があきらめずに家具デザインと製作の仕事をなんとか続けてこれたのは、賀來さんの存在がおおきい。
ガンガンしゃべりたおして、シモネタ全開。ところが、木工と家具デザインについては、ものすごく勉強していて、その知識量たるや、いつも参ってしまう。それプラス、人にやさしい。人を思いやる。この独特のギャップにみんな巻き込まれてしまうのだ。

賀來さんはデザイナーだ。本人はどう思っているかわからないが正統派デザイナーだと思う。賀來さんの家具を観察してみると、あらゆる部分にちゃんとした理由がある。それは人間工学に基づくものであったり、生産効率をあげる工夫であったり、軽くするための工夫であったり。そのような基本を押さえていて、なおかつ美しい。

目新しいカタチの表現より、座りやすくて、愛着がわくような、世間一般の人々に、普通に使ってもらうことを意識しているのではないだろうか。たとえば、試験に出して安全性を確かめる。生産は国内でするのか、それとも海外か。素材は何がよいか、コストはどうするか。そのような地道な過程をコツコツとクリアさせて実際に販売している。実は賀來さんの家具は商品化され売っているが、名前とか出していない。普通に売っている。デザイナーの名前、賀來さんにとっては、そんなことどうでもいいのだろう。

「つくれる家具」とは賀來さんが考案したもので、ホームセンターで入手できる杉のヌキ板、のこぎり、金づち、木工ボンド、電動ドライバーがあれば、しっかりとした椅子や机が出来てしまうすぐれたものだ。この「つくれる家具」のすごいところは、コストがかからない上、木表木裏という木材の見方、のこぎりの使い方など、木工の基本が学習できるといったすぐれた側面もある。また、材料の入手しやすさ、作りやすさといった利点があるので、災害時にも役立つと思う。

「つくれる家具」は、実際に作って、使うことによってはじめてそのよさがわかる。DIYといえば2×4材があるが、あの材は厚さもあって電動マルノコがないと作る気がおきない。ところが、杉のヌキ板を使った「つくれる家具」はせいぜい厚さが12mm〜15mm程度。だから手ノコでさくさく切れる。これがなんとも楽しいのだ。強度を出すために材をL字に組むのだが、ボンドを塗って、隠し釘で固定して、すぱっと頭を飛ばす。これもなかなか気持ちがよい。電動工具といえば電動ドライバー程度しか必要ないというのもありがたい。(杉なので手回しドライバーでも出来ると思う)気軽に作れるというのは、ほんとうにすばらしいことで、ちゃんと使える椅子が簡単に作れてしまう。

もうひとつ関心したのは、オープンソースでいいよ。みんなまねして作って大いに結構というわけだ。そのあたりの考え方がデザインの本質をついているような気がしてならない。法律的にも実はそのとおりで、意匠登録してもデザインを独占できるわけではなく、ある一定の期間がすぎたら、誰でも利用ができるように権利は消滅する。そして、いつの時代も優れたデザイナーや建築家はカタチを創造するだけではなく、コンセプトや理念を提唱してきたように思う。「つくれる家具」もひとつの提唱だと思う。

売れっ子デザイナーはたくさんいるが、何かを提唱できるデザイナーや木工家はまだまだ少ないと思う。年々進化し続ける賀來さん。今後もこのオトコの動向から目が離せない!
   
 
   
   
 
 

おまけ 内田利恵子

 

今回の丸投げ原稿作戦。結果として、賀來さんを褒めちぎることとなってしまったことが悔しい。褒められるのを営業妨害とぼやく賀來さん、その賀來さんを困らせた筧さん、マイウェイを貫く狩野さん、確かに三人三様で不思議な3人。この展覧会をきっかけにナガスギも沢山の人の目に触れ、使って頂けた。何より沢山の人との出会いがありがたかった。杉のおかげか、3Kのおかげか、その両方か。

   
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●<かく ひさし> デザイナー、木工職人、クリエイター、変態

賀來寿史= ( 人 + コト ) × ( モノ + 木 )

家具町LAB.=木のある暮らしをかんがえる実験的空間
 

●<かけい ひろし> インハウスデザイナー 三人娘のパパ

LLP吉野やままちHP  林業、製材、加工、デザイン、まちづくりのメンバーが、やまとまちを繋げます。

杉場_研究所FB  ナガスギを広めるために2014年に設立された有志会社。
 

●<かのう しん> 一級建築士・デザイナー

小型の木製品から公共施設の家具デザインまで手がける。自ら家具製作も行うデザイナー。

狩野新アトリエ
  ●<うちだ・りえこ> 1級建築士。建築設計室Morizo-主宰。LLP吉野やままちライブラリー暫定館長代理。
建築設計室Morizo-HP
 木から森から創造する心地いい空間を目指します。
LLP吉野やままちHP  林業、製材、加工、デザイン、まちづくりのメンバーが、やまとまちを繋げます。
   
 
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