特集 函館空港木質化プロジェクト
  Hako Dake Hiroba(北海道産針葉樹材を活用した製品開発プロジェクト)

文/写真  鈴木 正樹

   
 
 
 

 以前、月間杉81号で書かせていただいた旭川での「針葉樹活用セミナー」から約1年が過ぎた頃、セミナーの仕掛け人だった、北海道上川総合振興局林務課の佐藤司さん(以下、つーさん)が私の地域の渡島総合振興局の林務課へ異動してきた。数ある振興局の中でうちへ来るとは運命か?針葉樹活用セミナー&飲み会で南雲さん、若杉さんからスギダラエキスを最も注入された変態2人が出会ってしまった。セミナー後に「スギダラ針葉組合」と「スギダラ道南支部」をそれぞれ立ち上げたものの、これといった活動はなく、会う度に「何かできないかね」と話していた。そんなある日、つーさんから連絡が入った。「地域材利用開発事業という補助事業が出たけど、何かできないかな?」この事業は、今までにない地域材(道産針葉樹)の使い道等をデザイン・試作・実証できるという事業で、確か連絡を受けたのが木曜で翌月曜までに返答をしなければならいということだった。事前に準備していたならすぐに対応できたが、何もなく、考えた。ちょうど少し前に札幌支店の移転・改装のお手伝いをさせていただいていたこともあり、すぐに鞄燗c洋行が浮かんだ。そしてもうひとつ浮かんだのが函館空港ビルデング鰍セった。これも少し前に潟nルキが遊び半分で開発した「スギックモック」を購入、木育イベントをお手伝いさせていただいており、木材利用の取組みに理解のある人(石田次長)がいるのを思い出したからだ。そのことをつーさんに伝えると「いいね!でも、それだけでは弱い≠フで研究機関も入れた方がいい」という助言を得て地方独立行政法人北海道立総合研究機構森林研究本部林産試験場(以下、林産試験場)に協力してもらうことにし、要請はつーさんに任せることにした。

   
 
  函館空港に設置された木育コーナー
   
 

もちろんこれから開発するので、どんなものか決まっていないが、地域材を使った木製品を内田洋行がデザインし、材料をハルキが供給し、その強度を林産試験場が調査し、函館空港内に設置するというストーリーが固まった。まず函館空港ビル、石田次長(現部長)へ電話した。
鈴木「あの〜、タダで木製什器とか整備出来そうなんですが、協力してくれませんか?」
石田次長「はい?」
鈴木「返事を月曜までに欲しいのですが…」
石田次長「えぇ??」

とりあえず事業内容を簡単に説明し、社内で協議してもらうことにした。この時、この先もそうだが、函館空港ビルという会社において「即決」や「今までとまったく違う取組み」を行うのはそう簡単ではない、それを間に立って調整してくれた石田次長の苦労は計り知れないものがあったと思う。次に内田洋行の名畑支店長へ連絡を取った。「面白そうですね!パワープレイス若杉を行かせます!」と嬉しい返答をいただいた。林産試験場からの協力も得られることになり、月曜には石田次長から「とりあえずOK」と返事をいただき、事業へ応募することが決まった。申請にはとりあえず(・・・・・)では応募できないため「針葉樹材を活用したテーブル・イスなどの什器等の開発」と記載した。そんな曖昧な内容だったが無事採択され、事業が開始された。
函館空港にて行われた第1回目の検討会は自己・自社紹介、北海道及び渡島地域の森林資源の現況と問題点などが紹介された他、キッズコーナーの事例が報告された。その後、懇親会が行われ「イメージキャラクターを作ったら面白い」クロネコヤマトは社員の子供がデザインした「黒猫」がそのままロゴになったという話を若杉さんから聞いた。(余談だが、懇親会の2次会で石田次長に連れて行ってもらった「がたろ」という店は、店主が客より先に酔い潰れ、寝入ってしまうか、違う店に飲みに出掛けてしまうというとても楽しい店だった。)
約2ヵ月後に行われた第2回の検討会は内田洋行の札幌支店で行われ、いよいよ、待ってました!パワープレイスよりプラン提案が行われた。若杉さん、小林さんから提案されたプランは予想をはるかに超える…というかヤリ過ぎ?!なプランで、聞いていてワクワクした。「函館はかつて箱館≠ニいう地名であり、空港全部を箱だらけ、箱だけにしちゃおう!空港ビル1階から3階まで、ありとあらゆる全てが箱・箱・箱。」実現不可能とも思えるものもあったが、暑苦しく・真面目に語る若杉さん、小林さんからは、やれる!やるんだ!という勢いを感じた。そして、プレゼン後半に嬉しいサプライズがあった。この日のために箱のイメージキャラクター「ハコダケ」をデザインしてくれていたのだ。以前の懇親会の時、クロネコヤマトの話が出た翌日、私の子供たち(当時小5、小3)にイメージキャラクターを書かせてみた。実にシュールな仕上がりで笑えたため、それをフェイスブックにUPしたのだが、それをモチーフとしてくれていた。(余談だが、後日このプランを小3の娘に見せたら、美大に行く!将来デザイナーになる!と言い出した。パワープレイスの方々責任とってくださいね)プレゼンを聞き終えた石田次長は「さすがに全部は予算も時間的にも厳しいでしょう」と言ったが、取り入れられるところだけでも前向きに検討しますと言ってくれ、検討会を終えた。

   
 
   
 
 
  原画とデザイン
   
   その後、秋田バスターミナル等の先進地視察や検討会を重ね、3階の閑散としたスペースに人を呼び込みたいとの函館空港の意向を踏まえ、ゲームセンターがあった所に遊具を作る計画となった。当初はCLTで作るなどの案もあったが、現実的ではなかったため、ジャングルジムのような構造で作る方向で進められた。柱に丸棒を突っ込む構造の納まりにパワープレイスメンバーは相当頭を悩ませながらも何とか検討会までに作り込んで来てくれた。そのプレゼンの日に事件?が起きた。若杉さん・小林さんのプレゼン後に、オブザーバーのひとりがおもむろに「このジャングルジムは子どもの目線で考えていますか?大人の都合で考えていませんか?」と言い出した。私は心の中で、パワープレイスがどれだけ大変な思いをしてここまで来てくれているのか、あなたは分かっていないだろ!東京おもちゃ美術館も手がけるプロ集団、子どもの目線も、もちろん分かって作っている!と心の中では思っていたが、それを口に出来ず、沈黙が続く…そんな凍りついた雰囲気のなか、若杉さんが口を開いた。「そもそもジャングルジムで進めてきた訳じゃないから…やめちゃいますか!」この一言に皆一瞬「え"〜」と思ったが「おぉ!いいね!」ということで一致団結。さすが若杉さんだ!と思える一面だった。その後、開発が加速を増していく…予定だったが、想定外?のありがたいお仕事が出てきたため事業は一時休止となる。それは函館空港3階で、使っていないスペースを多目的ホールとして使うために改装する計画が持ち上がったのだ。せっかくだから、この検討メンバーで地域材をふんだんに使った空間にしようという話になった。同じ頃、別件で札幌に出張し、北海道庁林業木材課他の方々と飲む機会があった。私は、何気なく林業木材課の担当に「函館空港で木質化の計画が上がっているんですよ〜」と言った。その担当者は「その話、詳しく聞きたいから明日、本庁へ来てくれ!」と…二日酔いで本庁へ行き話しを聞いたら「補助残があるので、多目的ホールに使える」ということだった。本庁を出てスグ、石田次長へ電話した。
鈴木「あの〜、多目的ホールの整備に補助出るみたいなんですけど…」
石田次長「いいですね!」
鈴木「それで…事業に乗るかどうかの返事を今日中に欲しいんですけど…」
正直この時、自分もさすがに無理だろうなぁと苦笑いしながら電話した記憶がある。
石田次長「えぇ〜!それはさすがに無理!!」
と案の定言われたが
鈴木「せっかくなので…後で取り下げてもいいので、エントリーだけでも…」
その日のうちに何回か連絡を取り合い、最後は
石田次長「ダメかもしれないけど、とりあえず…」
と渋々了解を得たのち、なんと申請は通ってしまった。しかし、着手からオープンまでは約3か月程度しかなく、この間遊具コーナー開発は休止状態となった。7月末にオープンしたこの多目的ホールは、「ハコダケホール」と命名さることとなった。この当時はハコダケ≠ヘ間違えだと思われないか?函館ホールじゃダメなのか?という議論がよく行われていたが、箱だけ、箱だらけにしよう!という当初のコンセプトを貫き通した結果、今では誰もその名を疑う者はいなくなった。このハコダケホールはトドマツインフィルや道南スギ・カラマツの浮づくり3層パネル(一応CLT)、林産試験場が開発した浮づくり色彩合板等の新技術が盛り込まれた素晴らしい空間として7月末に無事オープンした。
   
 
   
 
  ハコダケホール
   
   一時休止状態だった遊具開発は再開され急ピッチで進めたれた。強度試験や試作による問題点の洗い出し、その解決方法を話し合う検討会などを経て、いよいよプランが出来上がった。函館空港ビルより「ゲームセンター機器の一部を残したい」という要望があり、全体スペースの半分を木製遊具コーナー「ハコダケヒロバ」、もう半分のスペースにゲームセンターを残すことになった。木をふんだんに使うコーナーにゲーム機器が見えるのはカッコ悪いので、隠れるよう壁で囲ってしまおう、せっかくなら壁に展示物が設置できるようにと「ハコダケギャラリー」が考えられた。このハコダケギャラリー壁面には、特殊材の「ブルテンボード」が使われている。この材が使われた経緯には様々な問題があったため、この時から材をチョイスしたパワープレイスの坂本さんが「ブルテン坂本」と呼ばれるようになった。(詳しい内容は本人に聞いてください)壁の展示物については、地域の子どもたちに関わりをもってもらおうと、つーさんが尽力し、周辺等の小学校6校による木工レリーフ作品が展示されることになった。展示されるまでには、つーさんvs教育局の熱い戦いがあり、よく愚痴を聞かされた。(笑)
   
 
  ギャラリーに展示された木工レリーフ作品
   
  そして、いよいよ平成26年11月29日のオープンを迎えるのだが、オープン当日は関係者や検討メンバーが集まるだけでなく、木工レリーフ作品を作った小学生を呼び、オープニングセレモニーを開催することになった。セレモニーの初めに若杉さんよりお言葉をいただいた。若杉さんは子どもたちに対し「みんなの作品がこの壁に展示されていますね。このコーナーは君たちみんなも一緒に作ったということです」この言葉で子どもを含む会場にいる全ての人との一体感が生まれた。次に子供たちによるテープカット、ではなく「丸太カット」、くす玉割りではなく「くすハコ割り」を行ったのち、木工レリーフ作品の表彰式を行った。そして、いよいよ!「どうぞ遊んでください!」の掛け声の後、「待ってました!」と子ども達が一斉に遊具に向かった。この時の笑顔は今でも忘れられない。 こうしてオープニングセレモニーは大盛況に終わった。
   
 
 
   
 
   
 
 
   
 
   
 
   
 
  オープニングセレモニーの様子
   
 

オープンから4ヶ月後には、今回の取組の成果発表として「道産材活用セミナー」を行った。セミナーの講師には、検討メンバーやスギダラメンバーの他、日頃お世話になっている方など、これ以上はいないと言う程、贅沢な講師陣が集まり事例発表等や漫才(若杉さん千代田さん)が行われた。講演の合間には、道産材で出来たギターでの演奏会やJAZZコンサートなども行われた。そしてこの日、ついに現れた「ハコダケ君」が会場を盛り上げ、こちらも大盛況のうちに幕を閉じた。

   
 
 
  セミナーチラシ
   
 
  ハコダケくん
   
 

 約1年半の取組を振り返ってみると、色々な人の顔が浮かんでくる。あの時、この時、様々な場面で色々な人と出会った。助けてもらったり、共に苦労したり、その全ての皆様へ感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。
皆様のおかげで、とても楽しい時間を過ごすことができました。これからも色々と無茶を言いますが、聞いてやってください、よろしくお願いしますだハコ〜!

   
 
  ハコダケ広場がキッズデザイン賞を受賞しました
   
  最後に函館空港Hako Dake Hall で行われたLIVEを御覧くださいハコ〜!!
   
 
   
   
   
   
  ●<すずき・しょうじ> 株式会社ハルキ 企画・開発室 室長
   
 
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