特集 吉野町 「愛・学習机プロジェクト
  「共に育む、愛学習机」

文/写真  石橋輝一

   
 
 
 

木のまち「吉野」の吉野中学校は、2009年に建て替えられ、鉄筋コンクリート造ですが、内装は地元の吉野杉と桧をふんだんに使用した、温もりのある校舎となりました。

ただ、学習机は当時の財政状況から、既存の机と椅子を継続使用することとなり、メラミン化粧板の一般的な学習机が使われてきました。ただ、傷みも多く、近いうちには新調する必要性はありました。

新しい学習机の導入にあたり、校舎と同様に、木のまち「吉野」に相応しい机を求められていました。当初は、オール木製で検討されていて、町内の家具屋さんにも相談があったそうですが、全校生徒分150セットの机と椅子となると、数量が多く、対応が難しい部分がありました。また、オール木製の場合、強度を得るために、重厚な形状となり、重たくなる傾向があります。

そのような中で、吉野の山守である中井章太さんの熱意、若杉浩一さんをはじめとする内田洋行、パワープレイスの皆さん、藤森泰司アトリエさんのご協力というスギダラの繋がりのなかで、新しい発想の学習机が生まれました。

木製の天板とスチール脚の組み合わせで、天板部分は生徒ひとりひとりの専用のものになります。そして、この天板は生徒の皆さんと一緒に作ります。完成品を与えられるのではなく、自分で組み立てることが大切なのだと思います。木を使うことが特別なことではなく、ごく当たり前の姿として、木のある暮らしを身近に感じ、より深く愛着を感じてもらえると思います。

   
 
 
  2012年6月。若杉さん、藤森さんをはじめ、デザインチームの皆さんの吉野中学校視察の様子
   
 

2012年頃から動き始めたプロジェクトは、2014年8月に吉野中学校に納入するまで、2年半の時間をかけて進みました。

木製の天板部分については、吉野の製材所、集成材工場、木工所が、お互いの強みを活かす形で分担し、共作しました。吉野は木のまちですが、木製品を大量に製造できる大きな工場はありません。コストを抑えるためには、手作業だけでなく、できるだけ機械化も必要です。

家具製造業のグリーンフォレストの田中寿賢さんに、藤森泰司さんのデザインをもとに、製作のアイデアを練ってもらいました。最終工程の組立を生徒の皆さんと一緒にするので、複雑な手間を省く必要がありました。そこで、天板を各部材に分けて加工し、ノックダウン家具として最終組立をする形が生まれました。

素材は吉野桧です。当社、吉野中央木材で用意させて頂きました。節のある部分を使っています。吉野桧の色艶を活かすように、低温で人工乾燥を行いました。吉野林業の特徴である密植や枝打ちの影響で、吉野材は死節や抜節が多くあるため、丁寧に埋め木補修を施して対応しました。

天板の幅が450mmあるので、一枚板では高価になり、また、反りの問題もあるため難しいです。天板を四分割して、狭い板を剥ぎ合わせて、広い板を作りました。集成材工場の垣本ハウスさんにお願いしました。

ノックダウン家具のため、金具やダボの位置に精度が求められます。この部分は、システムキッチン等の建材部品の製造をされている菊谷木工所さんに加工して頂きました。

グリーンフォレストの田中寿賢さん、垣本ハウスの垣本浩良さん、菊谷木工所の桝谷(旧姓:菊谷)紀恵さんは皆、吉野のスギダラ仲間です!

   
   
 

2014年8月。吉野中学校の全校生徒の皆さんと一緒に、愛学習机の組立てワークショップを行いました。当日は、愛学習机が生まれる道のりを、林業、製材、集成材、木工、家具、デザインに携わった皆さんの仕事風景とインタビューを映像にまとめて上映しました。愛学習机は単なるモノではなく、50年100年の歴史の積み重ね、多くの大人達の愛が込められている事を伝えたかったのです。

   
 
   
 

2015年3月、愛学習机のはじめての卒業でした。3年生のみなさんは、2学期と3学期という短い間ではありましたが、愛学習机とともに過ごしてくれました。天板に寄せ書きをする姿があちらこちらで見られました。とても嬉しい光景でした

   
 
   
 

そして、2015年4月。新入生の皆さんと一緒に、愛学習机の組立てを行いました。新1年生の皆さんから感想文をいただいていますので、来月号でご紹介しますね!

   
 
   
 
   
 

愛学習机自身も成長を続けています。2015年5月、現2年生、3年生の皆さんの天板は無塗装で使ってもらっていましたが、保護塗装の要望が多かったので、米糠ワックスの塗布を行いました。また、高身長の生徒さんが、天板部分に太ももが当たり、窮屈だったので、スチール脚に桧の角材を取り付けて、高さを上げました。

   
 
   
         
 

木は良い部分があり、不便な部分もあります。木は使い方しだいで、良くもなり、悪くもなります。木のある暮らしを実践してくれている吉野中学校の生徒の皆さんに感謝です。愛学習机プロジェクトに終わりはありません。地域との絶え間のない繋がりが続きます。愛学習机を共に育んでいきたいです。この積み重ねが、木のまち「吉野」の未来に繋がると思うのです。

   
   
   
   
  ●<いしばし・てるいち> 吉野杉・吉野桧の製造加工販売「吉野中央木材」3代目(いちおう専務)。杉歴5年。杉マスターを目指し奮闘中!
吉野中央木材ホームページ: http://www.homarewood.co.jp
ブログ「吉野木材修行日記」: http://blogs.yahoo.co.jp/teruhomarewoodもよろしく!ほぼ毎日更新中です。

『吉野杉のハラオシをしよう!』web単行本: http://www.m-sugi.com/books/books_ishibashi.htm

   
 
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