隔月連載
  にっぽん飫肥杉仮面ばなし 第5話
文/ 河野健一
   
 
 
 

「こぶとりじいさん」

むかし、むかし、あるところに、うんと気のいいおじいさんとおばあさんがいました。おじいさんは、どちらかというとポッチャリ系。そう。小太りじいさん。

おじいさんの左のほっぺたには、大きなこぶがありました。おじいさんは、このこぶのことを「こぶん」と呼んでいました。じゃまになって、じゃまになって、どうにもならなかった、ある朝、おじいさんが言いました。「山の神様に、このこぶんを取ってもらうべか!」

おばあさんはニコニコうなずいて「それはええ。山のお堂にお泊りして、神様にお願いしなはれ」と言い、餅や魚など、お泊りの仕度を始めました。それを見たおじいさんは「おいおい、そんなに食べたら太っちゃうよ。」どうやら、少しは体型を気にしていたようです。

次の朝、出発したおじいさんは、山のお堂に7日×3週間=21日も泊まりました。いよいよ明日が21日目という晩のこと。真夜中になって、お堂に年頃の男女がぞくぞくと集まってきました。席に着いた男女は、伏し目がちで恥ずかしそう。

そんな男女に何かが配られ、ちょっと怪しげな音楽が流れ始めました。配られた飫肥杉製の仮面を着けた途端、お堂の雰囲気が一変しました。みんなが大胆になり、勇気を出して、好みのダンスパートナーに手を差し出しています。さあ、飫肥杉仮面舞踏会の始まりです。

お堂で、おどーるのです。

若い男女が恥じらいもなく、熟し始めた体を密着させて、踊っています。おじいさんの、もう一人の「こぶん」が騒ぎ始めました。おじいさんは、ついつい踊りの中に加わり、体中を揺らし始めました。それを見た、やや頬を赤らめた若者たちは、さらにテンションを上げます。

外が明るくなり始め、踊り明かした夜が終わろうとしています。あるマッチョな男子が、おじいさんに言いました。「マッチョでーす! 小太りじいさん、ありがとう。おかげで倍、勇気が出たばい。オレたちは甘かった。男の本能を目覚めさせてくれて、センキュー! また来てくれ! これは預かっておくぞ!」いきなり、おじいさんのこぶを、ぺろっと取って、たちまち帰っていきました。

おじいさんは、何度も何度もほっぺたをなぜて喜びました。「3番の女子は、かわいかった。7番の娘は、連れて帰りたかった。」しかし、おばあさんの顔が浮かんしまいました。しかし、消した。つるんつるんになって、軽くなったほっぺたで、おじいさんは飛び跳ねながら、家へと急ぎました。

「ばあさん、ばあさん、ほら!つ〜るつる!」おばあさんは、振り向かずに答えます。「じいさん、元からでしょ〜がww」すると、おじいさん。「はっ、はっ、はっ。こりゃぁ〜1本取られたな。」おばあさんは「1本もないくせに!」と突っ込もうと振り向いた瞬間、「ぎゃあぁぁぁーっ!」

大喜びで「山の神様、ありがとう!」と言いながら、おじいさんに抱きつき、つるつるほっぺにチュッチュ、チュッチュしました。そこへやってきた隣のおばあさん。「あら、お盛んね。いったい何があったの?」と質問したものの、おじいさんを見て、すぐに気付きました。「うちのじっさまの右のほっぺのこぶも、消えるかな? どうすれば?」

おじいさん(以下「じいさんA」という)は、初めから詳しく説明してあげました。よって、隣のおじいさん(以下「じいさんB」とよぶ)も20泊21日お堂の旅に出発。すると、教わったとおり、最後の晩に、お堂に年頃のぞくぞくした男女がぞくぞくと集まってきました。本当に、席に着いた男女は、伏し目がちで恥ずかしそう。

しばらくして、じいさんBが見渡すと、飫肥杉仮面を着けた男女が大胆に絡み合って踊っています。そうなのです。飫肥杉仮面は、婚活パーティーに「もってこい」のアイテムなのです。現代の若者に不足がちな「勇気」を引き出す変身グッズ。肉食とか草食とか言わせない、装飾アイテム。しかし、じいさんBの場合、じいさんAのように、もう一人の「こぶん」は騒ぎません。

その代わりにではないのですが、あの晩のマッチョ男子が騒ぎ始めました。「小太りじいさん、来てないのか? オレの勇気を、また倍増させてくれ! じゃないと、ヤばいぞう! 男の本能を目覚めさせてくれ! 預かり物を返してやるから!」探しまくった挙句、じじいBを発見しました。

「よく来た! よく来た! 待ってたぞ! &舞ってたぞ!」マッチョ男子とその仲間たちは大喜び。ところが、じいさんBは、うんともすんとも。マッチョーズがはやせばはやすほど、Bは縮こまります。きっと、これを河野しゅんじさんが見ていたとしたら、知事困ります。(笑うところですよぉ〜♪)

「そんな、ダンスあるもんか! しっかり踊れ!」1人のマッチョがじじいBの背中をドンと突きました。Bは、ずでんと転がって、おんおん泣き始めました。「やめだ!やめだ!今夜の仮面舞踏会は、このじいさんが台無しにしてくれた!」「ほら、こぶを返してやるから、とっとと消えろ!」マッチョーズは、Bの左のほっぺにペチョっとこぶを貼り付けました。

そうして、ガヤガヤと街へと消えていきました。じいさんBは、こぶを左右に2つくっつけて、しくしく泣きながら家へ帰ってきたそうな。

突然ですが、この昔話で大事なポイントは、「楽しむ」ということです。人や場面によっては、それが苦痛なことがあるかもしれません。しかし、勇気を出して、自分で自分のスイッチを入れて、「楽しもう」モードにしてしまえば、案外うまくいく場合もあります。

自分がニコニコしていれば、相手も周りもニコニコしてくれる。自分がギラギラしてみると、周りもギラギラ熱くなってくれる。なかなか、なかなか難しいことなのかもしれませんが、たまには良いじゃないですか。「変態」という名のソウルを持っているツモリになって、誰かを喜ばしてあげようじゃありませんか。

そんなシーンが最近ご無沙汰だったことを、これを書きながら思い出させていただきました。センキュー!

   
 
 
日南市広報誌の4月号で、すみっこに登場した飫肥杉仮面レッド   同じく5月号の、飫肥杉仮面グリーン
   
 
 
同じく6月号の、飫肥杉仮面ブルー   7月号用に描かれたが、打ち切りでお蔵入りとなった飫肥杉仮面イエロー
   
 
  飫肥杉仮面カルタは「あ〜え」の4枚しか描かれず(笑)
   
   
   
   
  ●<かわの・けんいち> 日南市役所 広報担当 / 日南市 飫肥杉課OB / スギダラ飫肥支部 広報宣伝部長・会員番号441
   
 
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