連載

 
杉スツール100選 第7回 「quartetto」
構成/南雲勝志
スツールというシンプルな形を通して、杉の家具材としての可能性を探る。目標100点。
 


「勝間田くんのこと」


 

 

今回のスツールのデザイナーである勝間田君はぼくがICSカレッジオブアーツというデザイン学校で家具の授業を教えていたときの学生である。スギダラ本部の増田さん始め、まとまりはないが個々ではユニークな集まりのクラスであった。

彼はひと言で言うとシンプルで禁欲的なセンスの持ち主で、形態や素材の勘所を掴むのがうまく、少し他の学生とは違ったアプローチをしていたと記憶している。
当時「自分がこれだ!と思うものを発想することはとても大事だが、そのあとちょっと引いて客観的にみてみたり、力を抜いてみたり、少し柔軟に考えるようにした方がいいよ」 と言ったことがある。
こだわりは大事だが、そのこだわりが本当にこだわるに値するかどうか?それを考えないと独りよがりになってしまうということだ。もちろんこれはぼくら自身にも言えることで、飲み込みの早い彼はその意味を察してくれるという期待もあった。
そして現在、今をときめくテラダデザインのスタッフとして活躍中である。
そんな彼にスギダラデザイン部長の若杉さんが期待を込めて勝俣君にスギスツールのデザインを投げかけた。

 

1ヶ月ほど前に内田洋行のショールームで初めてそのスツールを見た。それは ショールームの壁にひっそりとたたずんでいた。「あれなに?」若杉さんに聞くと、「これが勝俣君の椅子ですよ!」と教えてくれた。
一見タコスギの兄弟かと思ったが、金属を表に出さない優しさが若杉風とはやや異なる。
すわってまあまあ、カタチもまあまあ、まとめ上げる力はやはりさすがである。
次にひっくり返してみる。すると金具とビスをを見せないための苦労が伺えるディティールだ。脚に至っては一本ものを削り出すためかなりの加工が必要である。
しかし、そんな苦労を表から感じさせまいとする気持ちが伝わってくる。(金具の白色だけは意味不明だが)

杉という素材は難しい。他の素材に負けないようディティールを頑張れば、加工費も負けずに高くなる。どこに出もある身近な素材。そんな材料だからこそ可能になったという必然性を持たせるためには、実はかなりの知恵と努力が必要である。
本人も書いているように彼はそこに気がついている。
次のデザインに行く前にぜひこのスツールをもう一歩成長させ、完成に近づけてもらいたい!


●<なぐも・かつし>デザイナー
ナグモデザイン事務所 代表。新潟県六日町生まれ。 家具や景観プロダクトを中心に活動。
最近はひとやまちづくりを通したデザインに奮闘。著書『デザイン図鑑+ナグモノガタリ』(ラトルズ)など。
日本全国スギダラケ倶楽部 本部



「quartetto」が出来るまで。

文 /勝間田慎也 ・写真/千代田健一
 

 今回このようなチャンスに恵まれとても有り難かったのですが、実は今まで木でデザインすることにあまり興味が無かったので(スギダラの皆さんスミマセン!)、とても難しく、勉強になるテーマでした。
 最初に杉のスツールと聞いた時、角材の束に腰掛けるイメージが浮かびました。そして、それだけでは視覚的にも重量的にも重いので余分なところを削り落とそう、というコンセプトを考えたのです。杉の暖かさや力強さを残しつつモダンな空間にも合うように、という目論みだったのですが、はたして……。

 座部の厚みや脚の細さなどは、原寸模型で全体的なバランスを確認しながら決めていきました。上から見下ろした時のパース感を補正するために(頭でっかちに見えるので)、微妙に裾広がりになるプロポーションにしたかったのですが、コストの問題で断念しています。
 ディティールでこだわった点は、削り取った部分の面取りです。その面取りを他の部分よりもシャープにすることで、角材の束の面影を残しつつ削り取ったことを強調しています。
 また、杉の家具にも色があった方が楽しいのではないかと思い、スリット状に見えてくるステンレスのジョイントパーツを塗装しました。

 一番の問題点は、パーツ同士のジョイント方法でした。「角材が束になっている」ということのみが重要で、どんな方法でジョイントされているかは見えるべきではない、と考えたため、ボルト等は使いたくありませんでした。そこで、ダボや木材の別パーツを埋め込むことによる接着のみでできないかと若杉さんや千代田さんに相談したのですが、杉材の収縮などでうまくいかないだろうとのこと。しかし、結局ワガママを聞いていただき、ステンレスのジョイントパーツ、木ビス、ダボの併用でなんとか完成しました。

 いざ完成してみると、意外に個性が強くて置かれる場所や合わせる家具を選ぶこと、こだわったはずの面取りの仕方が思ったほど効果的でなかったこと、やはりジョイントの強度が不安なことなど問題、課題が続出。そもそも原価10万!! いくらで売るんだッ!? これではデザイナーではないですね。形状的に杉パーツの加工が大変だったようです。ただ、材木屋さんのご好意で節の無いキレイな材を使っていただけましたし、プロポーション的にはほぼ思うようにできたので、そこは良かったと思っています。

 

 

  写真1
 
 

写真2

写真3

 今回の反省点は、素材の特性を考えることよりも形を作りたいという思いが先行してしまったということでしょう。この形状であれば別の素材やエンツォ・マーリがデザインしたHIDAシリーズのように特殊な加工をした杉材(圧縮杉材)を使うべきでした。通常の杉材でという条件であれば、柔らかさ、反り、割れ、色(風合い)の変化など、杉材の持つ特性を受け入れられるようなおおらかな使い方が必要だったと思います。今改めて南雲さんや若杉さんの作品を見ると良く分かります。

 なんだか反省点ばかりが残ることとなってしまいましたが、これらを踏まえてさらに精進して行きたいと思います。最後に、このようなチャンスをくださった南雲さん、若杉さん、千代田さん、仕事外の作業を快く許可してくれた寺田さん、どうもありがとうございました。

 



●<かつまた・しんや>
有限会社テラダデザイン一級建築士事務所
勤務
   
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