特集 延岡・城山の杉ベンチ
  風景と記憶
文・写真/ 南雲勝志
   
 
   
 

土井さんからメールをいただき、その設置場所が延岡城趾の本丸跡にベンチを設置したいという話を聞いたとき、すぐに引き受けようという気持ちになった。

日向市のプロジェクトに関わり始めた25年ほど前、県の中村さんにつれられ始めて訪れる。現在は市のシンボル城山公園として親しまれているが、元々大瀬川と五ヶ瀬川に挟まれた天然の要塞、加えて千人殺しの石垣の男性的で力強い石積みに圧倒されたことを記憶していて、とても良い場所だという印象があったからだ。その後本小路通線の整備の時も改めてゆっくりと訪れたが、本丸跡から眼下を見ると、手前に大瀬川、その向こうに旭化成の煙突始め延岡市を一望できるとても気持ちのいい場所だ。

今回改めて海野さんに連れられ、土井さんと現場でお会いする。設置場所のイメージは予想通りだった。情緒的な鐘撞き堂や防犯灯のトラスも以前のままであった。
   
 
   
 
   
 

そして土井さん達の環境や杉に対しての熱心な考えを伺う。デザインのイメージは石積み始め、城趾の重厚さに負けないしっかりとしたデザイン、そしてまちを見下ろす視点に対して風景となる事であった。つまり背後からの見え方が中心である。バックのデザインが重要だな、と思った。

 
   
 

模型検討を経て大体デザインのイメージが決まる。あとはそれに見合う材料が見つかるかだ。2〜3ヶ月して海野さんから連絡が入る。「良い材が見つかりました。」送られて来た写真を見ると十分乾燥された目の美しい飫肥杉であった。「これで上手く行く。」確信できた。

製作のチェックは一度だけであったが、釘を一本も使わない蟻継ぎに歴史ある延岡城城趾に相応しい造形が出来たと思った。

   
 
   
 

良いものが出来るときはいい素材、良い技術が必ず必要である。海野さんとはようやく阿吽の呼吸で価値観が伝わるようになった。今回設置したベンチがその場の風景となり、訪れる人々に気持ちのいい時間を過ごしていただく場になる事を願っている。

   
 
  撮影:海野洋光
   
   
  ● <なぐも・かつし>  デザイナー
ナグモデザイン事務所代表。新潟県六日町生まれ。
家具や景観プロダクトを中心に活動。最近はひとやまちづくりを通したデザインに奮闘。
著書『デザイン図鑑+ナグモノガタリ』(ラトルズ)など。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部
facebook:https://www.facebook.com/katsushi.nagumo
エンジニアアーキテクト協会 会員
月刊杉web単行本『かみざき物語り』(共著):http://m-sugi.com/books/books_kamizaki.htm
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