特集 祝!グッドデザイン賞受賞  
  グッドデザイン金賞受賞報告 
文/写真 菅原香織
   
 
 
 
 
  これからご紹介するのは「秋田杉」をふんだんに使った木造のバスターミナルです。場所はJR秋田駅西口の交通広場にあります。
   
 
 
 

島のように位置する4つのバースに、バス案内所と13のバス停が配置され、秋田市内の路線バスと空港リムジンなどの発着ターミナルとなっています。

   
 
 
  バスターミナル建て替えのきっかけは、東日本大震災後に実施した耐震性調査の結果、 補強が必要との診断が出たことからでした.築30年が経過し老朽化が進行していることもあり、一時しのぎの補強ではなく建替えることになりました。
   
 
 
  以前は、秋田杉を活かした街並づくりの一環として、秋田市が鉄骨造の表面に秋田杉を貼って修景したものでした。そこでこのイメージを継承しつつ、秋田の厳しい風雪に耐え、完全木造で建て替えるにはどうしたらいいか、と、秋田中央交通さんから相談を受けたのですが、実施設計完成までに与えられた時間はわずか半年。これは相当の力量を持つプロジェクトメンバーが必要と判断しました。
   
 
 
  そこで、基本デザインを全国各地で杉を活用した公共デザインの実績のあるデザイナーの南雲勝志さんに依頼。デザインマネジメントを都市設計家の小野寺康さん、実施設計をWAO建築設計事務所の渡邉篤志さん、設計管理と各種申請を間建築研究所の堀井圭亮さん、相談役を建て替え前のバスターミナルの修景に携わられた花田設計事務所の花田順さんに依頼。のちに施工会社が中田建設さんにきまり、プロジェクトチームが発足しました。
   
 
 
 

コンセプトは「秋田杉のお出迎え空間」。秋田杉を用いた県都秋田市の玄関口にふさわしい居心地の良い空間を提供するとともに秋田市民の駅前の居場所を作り、秋田駅前の賑わい創出に貢献したいと考えました。

   
 
 
 

秋田杉は、厳しい気候に育まれ、美しさと強度を兼ね備えた紛れもなく世界に誇れる資産です。しかし、戦後、木材が輸入自由化されてからは安い外国産の木材に押されて、その魅力がまちなかや目に触れる場所から消えていきました。

   
 
 
  そこで「秋田杉」をふんだんに使い、機能的で美観も兼ね備えたバスターミナルに生まれ変わらせることで、「公共空間における木材利用の先進事例」として、秋田駅前周辺および秋田県の景観デザインの手本にしたいと考えました。
   
 
 
  構造は耐雪強度を考慮し、柱二本で屋根を支える門型構造としました。 軽快なイメージにするため土台や柱脚部等に金属による補強を行い、秋田杉には耐久性、安全性の確保と同時に、美しさを損なわない保護材の加圧注入処理を施しています。
   
 
 
  乗客のバース間の横断抑止のために全面を縦格子で壁面化。背面には目線の高さにスリットを設け、乗客とドライバー相互の視認性を確保しました。風雨対策としては各バースに一カ所、背面前面をガラスで塞いだ風除室を設けました。
   
 
 
  ベンチは暖かでやわらかい杉の質感を味わえるように、大断面の秋田杉を使用。
   
 
 
  屋根は冬期の落雪を防ぐため緩やかな勾配の片流れとし、耐久性のあるガルバリウム鋼板を使用、さらに雨樋は冬期の凍結による破損を考慮し強固な鉄製としました。
   
 
 
  金属部の仕上げは杉と調和するように鉄の質感を持ったリン酸亜鉛処理を施し、
   
 
 
  杉、鉄、ガラス、といずれも天然素材を使用、時間とともに味わいの増す素材で構成しました。
   
 
 
  シェルター内照明は約90cm間隔で省電力のクリヤ電球型LEDを使用し
   
 
 
  裸電球が連続する懐かしく暖かい雰囲気を、夜の秋田駅前全体に醸しています。
   
 
 
  バース全体に設置した4本のLED街路灯は強度を確保するため、柱の中心部は鋼管を使い、外周は秋田杉で覆いバスシェルターに調和するデザインとしました。
   
 
 
  バス停サインや広告などの掲示スペースは、出来るだけシェルターと一体になったデザインとし、全体をすっきり見せる工夫をしています。
   
 
 
  また、各バースに1カ所、秋田の祭りを表した組子細工を設置して、秋田の風物をアピールしました。
   
 
 
  秋田駅西口バスターミナルは誰もが目に出来る公共施設です。地域の素材を生かした魅力的なデザインにする事で、市民に愛され、誇りに思える施設になっていく。
   
 
 
  その記憶が秋田らしさを再認識し、秋田杉や地域の魅力をより普及する事に繋がることを心から願っております。
   
 
 
  本日はご清聴,誠にありがとうございました.
   
 
   
  『祝!グッドデザイン賞/金賞』へもどる
   
   
  ●<すがわら かおり> 教員
秋田公立美術大学 景観デザイン専攻 助教 http://www.akibi.ac.jp/
日本全国スギダラケ倶楽部 秋田支部長 北のスギダラ http://sgicci.exblog.jp/
月刊杉web単行本『あきた杉歳時記』 http://www.m-sugi.com/books/books_sugicchi.htm
月刊杉web単行本『あきた杉歳時記2』 http://www.m-sugi.com/books/books_sugicchi2.htm
   
 
Copyright(C) 2005 GEKKAN SUGI all rights reserved