隔月連載
 

吉野杉をハラオシしよう!/第75回「やっ樽で〜!桶!」は続く

文/写真 石橋輝一
"駆け出し"専務の修行日記
 
 

2009年のスギダラ関西・吉野ツアー&フォーラムから5年が経ちました。

フォーラムの後、吉野山でのスギダラな熱い夜を過ごしました。この時に「やっ樽で〜!桶!」(やるぞ〜!OK!という意味です!)というフレーズ(掛け声)が誕生しました。吉野林業の出発点である「樽」と「桶」の材料としての吉野杉を見つめ直す契機となり、その後の活動において大きな原動力となっています。

吉野杉の特性を最高に引き出した製品が「樽」と「桶」です。時代の変遷のなかで、昭和の高度経済成長を迎える時期には、木製の樽や桶の代替品として、プラスチックやFRP、琺瑯、ステンレスが登場し、日本人の生活様式の変化もあり、吉野杉の「樽」や「桶」の活躍する場は少なくなりました。ただ、建築材としての需要が急増したため、吉野林業全体としても、時代の流れで仕方のない事と捉え、僅かに「樽」の需要が樽酒の香り付けのために残っただけでした。

平成に入り、建築材の需要低迷、原木価格の下落、山林の荒廃が進む中で、吉野が目指す方向のひとつとして、ふたたび「樽」と「桶」に着目するきっかけを与えてくれたのが、スギダラだったのです。2009年以降、木桶復活プロジェクト、銘木と銘酒のまちフォーラム、吉野貯木まちあるきの各事業においても、「樽」と「桶」がキーワードとなり、「木と生きる、木と暮らす」という想いを吉野から発信しました。

月刊杉53号「特集:吉野
月刊杉68号「特集:銘木と銘酒のまちフォーラム
月刊杉100号「特集:第3回吉野貯木まちあるき&貯木本発行

木の樽や桶は、今の時代、素晴らしき"遺産"と思われがちですが、やっぱり木の方が良いと原点回帰の動きが始まっています。今回は、現在進行中の「やっ樽で〜!桶!」をご紹介します。

瀬戸内海の小豆島は国内有数の醤油の産地であると同時に、日本全国の現役の仕込み用の木桶の半数、1000本近くを抱える"木桶の王国"でもあります。月刊杉でも以前にご紹介しましたが、この地に蔵を構えるヤマロク醤油の五代目山本康夫さんは、本物の醤油は木桶でなければ出来ないという信念で、2009年から新桶の導入を進められています。

月刊杉89号「小豆島、ヤマロク醤油さんの木桶
月刊杉94号「小豆島で木桶職人復活!

醤油は和食の基本ですが、日本人の食生活に浸透したのは、木桶の存在があると言われています。木桶の製造法が確立するまでは、醤油の大量につくる事は不可能で、いわゆる上流階級の食事にしか使われなかったそうです。大きな木桶が出来てはじめて、醤油が一般に広まりました。そして、江戸時代に樽の製造法が確立することで、輸送しやすくなり、日本全国に広がり、和食の文化が形成されていきました。その樽と桶を支え続けたのが吉野林業であったのです。

昔、醤油の仕込み桶は、使えなくなった日本酒の仕込み桶をリサイクルしてつくる事がほとんどで、醤油屋さんが新桶をつくる事は無かったそうです。日本酒で20年、その後、醤油や味噌で100年というサイクルが地域内で確立していました。

しかし、この50年で日本酒の醸造容器が木桶から琺瑯やステンレスのタンクに変わり、醤油屋さんがリサイクルできる木桶が無くなり、さらに、木桶の需要が無くなった為、木桶職人が激減しました。日本全国の醤油屋さんで使われている2000本と言われる木桶の寿命は確実に近づいています。

このような状況で、山本さんは次世代に木桶仕込みの醤油を伝えるため、2009年に新桶12本を導入しました。仕込み用の大桶をつくる、数少ない桶屋さんである大阪・堺のウッドワーク(藤井製桶所)さんが手掛けられました。2013年には桶づくりの技術継承を目指して、山本さんと同級生で大工の坂口さんを中心に、藤井製桶所さんの指導のもと、木桶製作技術を学び、新桶を自らの手でつくりあげました。材料はすべて吉野杉です!

そして、2015年1月、新たに4本の木桶が完成しました。新桶づくりの最中は、全国から醤油屋さんをはじめ、いろいろな業界の方々が見学に訪れました。山本さんは、全国の醤油屋さんが木桶づくりの現場に立ち会うことで、桶の基本構造を知ってもらい、少しぐらいの修理は地元で出来るようになれば良いとお考えです。桶づくりの技術をもう一度、世の中に広めるための一歩です。

本物の醤油は、木桶でなければできない。
日本の木の文化は、食の文化にも繋がっています。先人が築きあげてくれた吉野杉を誇りに思います。

みんなで本物の醤油を味わいましょう!
とっても美味しいですよ!

   
  つづく
   
 
 

【お知らせ】

まち全体が製材所である"吉野貯木"のホームページができました!
Re:吉野と暮らす会の活動、イベント案内、木を楽しむ暮らし方、吉野貯木の最新情報を発信していきます。

吉野貯木 木のまちの暮らし

早速ですが、2月から3月にかけての吉野貯木でイベントが続きます。早春の吉野貯木で、木のある暮らしを楽しみませんか。ホームページのイベント情報をご覧になってください。ヨロスギお願いします!

   
 
  ヤマロク醤油の山本康夫さん(右)、坂口工務店の坂口直人さん(左)。同級生の二人が側板を削っています。桶は寸胴型ではないので、まっすぐ削るのではなく、微妙な角度をつけながら削ります。そうすることで、強くて美しい桶のプロポーションが生まれます。
   
 
  竹のタガを3人ががりで編んでいます。木桶づくりにおいて、良質な竹の確保が難しくなっています。日本中で手入れされた竹林が少なくなっている為です。ヤマロク醤油さんでは、山本康夫さんのおじいさんが手入れをしてくれていた竹林が残っており、確保ができています。
   
 
  全国から多くの方が見学に来られていました。
   
 
  底板です。美しい吉野杉です。思わず、頬ずり。香りよく、肌触りも最高!
   
 
 
底板の接合面の"落書き"です。何十年後かに修理の為に解体した時に出てきます。僕も書かせて頂きました。
   
   
   
   
  ●<いしばし・てるいち> 吉野杉・吉野桧の製造加工販売「吉野中央木材」3代目(いちおう専務)。杉歴8年。杉マスターを目指し奮闘中!
吉野中央木材ホームページ: http://www.homarewood.co.jp
ブログ「吉野木材修行日記」: http://homarewood.exblog.jp/もよろしく!ほぼ毎日更新中です。

月刊杉web単行本『吉野杉のハラオシをしよう!』: http://www.m-sugi.com/books/books_ishibashi.htm
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