隔月連載
  スギダラのほとり/第10回 「ゆく年くる年」
文/写真 小野寺 康
   
 
 
 

2014年も押し迫った、大晦日にこの原稿を書いている。
今年の総括をするためにこの日を選んだのではないが、結果としてそうなってしまったかもしれない。
少しプライベートな話題になってしまうことをお許しください。

この「スギダラのほとり」は、人に焦点を当てて書くことにしているが、そうなると書きにくいときがあるというのを今年はずいぶんと味わってしまった。
仕事の上では「秋田駅バスターミナル」が林野庁長官賞とグッドデザイン金賞をダブル受賞し、日向市駅及び駅前広場が土木学会デザイン賞の最優秀賞になるなど、めでたいことが続いた。また、前回書いたように『広場のデザイン』も上梓できたが、これも数年がかりの成果として感慨深い。
また、少しずつだが、新たなプロジェクトも始まった。新たな人たちとの出会いも増えたから、それらに絡めて、本来なら書くことはいっぱいあるはずだったのだ。

しかし一方で、実は今年ほど多くの人々を見送った年もなかったのである。しかも親族ばかりが続いたから、なかなか世間に報告しにくかった。つい先週も、ながらく世話になってきた叔父が逝ってしまった。
――いや、近しい人たちを失って悲しみに暮れているというのとは少し違う。
すでにここ数年覚悟を決めていたから、むしろ逝ってしまった人たちにはもはや感謝の気持ちしか残っていないし、面倒を見てくれていた人たちがそこから解放されたことの安堵の方が勝るかもしれない。
しかし今、仕事納めも過ぎ、一息をついてこの原稿に向かってみると、生活のリズムがすっかり変わってしまったという実感に気づかされたということである。
同時にここ数回、どうにも「ほとり」の原稿の進みが鈍かったというのは偶然ではないのだということにも思い至った。親しい人たちの死を越えて生活スタイルが一変する中で、これまでと同じ調子には「人」を語りづらかったということだったのだ。

本当にこの一年は、慶事と弔事が重なって目まぐるしかった。
しかし、今こうしてそのことを書き、決着をつけることで、ようやく新しい生活が始まる気がしている。
それは一つのけじめというものであり、そんな機会をいただいたのは有り難いことなのかもしれないとも。

まだこの「ほとり」で語らねばならない多くの人たちが自分の周りにいる。
たとえば、富山ではいま富山駅の開業に向けて急ピッチで現場が進んでいるが、この「ほとり」の第4回でも少し触れたが、駅舎内におけるガラス造形技術を使った空間表現がほぼ完成を迎えつつある。そうなると仕上げの報告もしなければならない。
また、姫路駅の駅前広場は、南雲勝志さん始めスギダラメンバーがかなり活躍したプロジェクトだが、眺望ゲートやブリッジ、サンクンガーデン、芝生広場と多彩なメニューが詰め込まれた複合事業で、日本初のトランジットモールも実現してしまうなど、画期的な内容になっているのだが、どうも今、大変なにぎわいになっている。それはこの月刊杉で特集を組んでいいほどのプログラムなのだが、じつはデザインチームと行政の間に微妙な軋轢が生じて、必ずしもすべてが思うようにいかなかった。
だが、それでも大きな反響をもって迎えられていることは間違いなく、それにはデザイナーばかりでなく、懸命に立て直そうと闘ってくれた行政マンの存在や、市民活動を積極的に仕掛けてくれた人たちの貢献も大きい。また、デザインチームの中でも、日建設計シビルの若手が懸命に働いてくれるなど、このプロジェクトには人間臭いドラマが散りばめられているのだ。これもどこかで紹介したいと思っている。
そのほかにも自分は今、岩手県大槌町と宮城県女川町という、二つの町で震災復興に関わっているが、そこで懸命に作業を重ねている新たな仲間のことも書いてみたい。
グッドデザイン金賞を受賞した秋田駅バスターミナルだって、この月刊杉で特集はされても、それぞれの人間模様や、受賞前後の後日談もいろいろとあったりする。
というように、書くネタには不足はないのだが、いかんせん今年は冒頭に述べたような状況で、遅々として筆が進まなかったことを言い訳させていただきます。

暮らしぶりは変わろうとも、人生は続いていくのであって、新しい生活やプロジェクトがこれからも続き、多くの人たちとの出会いがこれからも重なっていくとしたら、それはやはり、僥倖としかいいようのない、有り難いものなのだということを、今年はまさに実感させてもらった気がしている。
皆様、2015年もまた様々な出来事があると思います。
月刊杉も10周年とか。実にめでたいし、本当に大したものだと思わざるを得ない。
新たな時代に向けて、またともに笑い、酒を酌み交わし、そしてほんの少しでも社会に貢献していきたいと切に、本当に切に、そう願っています。
今後ともどうぞよろしく。

   
   
 

014年12月31日
もうすぐ夕暮れの空を眺めつつ

  
   
   
   
  ●<おのでら・やすし> 都市設計家
小野寺康都市設計事務所 代表 http://www.onodera.co.jp/
月刊杉web単行本『油津(あぶらつ)木橋記』 http://www.m-sugi.com/books/books_ono.htm
   
 
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