その記事は、こんな書き出しで始まっていた。

―　日南市の飫肥杉商品を世界に送りだそうと、県内の有志や市職員らがタッグを組んで「飫肥杉デザイン世界展開プロジェクトチーム」（斎藤潤一代表、6人）を結成した。−

「6人？」と思った。
斎藤くんに聞いてみた。「斎藤くん、タジーこと田鹿くん、長友まあちゃん、桑畑なっちゃん、FAAVOの斎藤くん、の5人までは分かるけど、あと1人は誰？」って。
「健一さんですよ。」こうしてボクは、このチームの一員になった。（なっていた。笑）

2014年12月2日の宮崎日日新聞

クラウドファンディングでは、2月5日までに調達する支援金の目標を250万円にしていた。しかし、1月12日時点での支援金は67万円で目標の27％だった。いよいよ期限がせまった2月3日でも142万円で56％だったのには、かなり焦った。それ以前からも終盤戦に、メンバーの口からは「このままじゃムリっぽい！」とか「もしダメだったら、どうする？」なんて出てこない。

そんな中、1月30日の夜だった。1人で仕事していたボクの職場に、稲本副市長が来られた。そして「目標に3分の1届かない！とかまで行けば、残りを出しても良いが…」「今から、1000人から1000円ずつ100万集める！集まる！と言うのなら、100万出してもイイぐらいのキモチだが…」的なことを言われた。そんなこんなで心配性のボクは、ついに、その夜のうちにメンバーに禁断の言葉を発してしまった。しかし、メンバーの返事は「達成に向けてやれることをやりまスギ！」「世界に出せるまで、挑戦し続ける！」などだった。

結果的には、仲間が可能性を信じて突っ走り、目標を大きく上回る325万円（目標達成率130％）もの支援をいただいた。正直ビックリした。正直ダメかもとか思ったりもしていた。達成後は、たくさん、たくさん、お祝いや激励の言葉をかけてもらった。皆さんが今回の挑戦に、こんなに関心を持ち、心配？していただいていたことを知った。

さらには、赤い帽子をプレゼントされた。サプライズで。日南の木藤亮太さん、山口日登美さん、山下勢伊子さん、増田倫子さん、日南出身で東京にいる外山了至くんの5人が、こそこそ(笑)とお金を出し合って買ってくれたらしい。その後、この赤い帽子は、飫肥杉仮面レッドのコスチュームになっている。きっと、飫肥杉仮面に変身時のボクのヘアーを不憫に思い、お祝い品にチョイスしてくれたのだ。

もっとさらには、その外山くんが、東京の古着屋で発見した！とか言って、もろアメリカンなシャツを贈ってくれた。「これ着てNY行ってください！」というメッセージと真っ赤な靴下も添えて。こうしてボクは、だんだん赤く染められていき、どんどん変態化していった。

出展が近づくにつれ、また多くの声をかけられるようになった。「いつ行くな？」「もう行ったとか？」「どんげやったな？」「そろそろやね！」「がんばってこい！」などなど。ボクは「ありがとうございまスギ！でも、ボクは行きません」とか返事していた。なぜ、行かないことにしたのか。それは、限られた貴重な支援金の中から、英語もまったく喋られないボクなんかの交通費を出していただく訳にはいかないと思ったから。じゃあ自腹で行くかというと、借りれば行けないこともなかったが、それも変だと思った。まあ、つまりは自分がNYで役立たずなことが分かっていたので、行けなかったのだ。意気地なし。

目標の130％という325万円の資金は、予想以上になにかと経費がかかり、NYに行くメンバーの交通費は自腹で、ということだったことを帰国した彼らから聞いて知った。

結果的に、NY出展中は、日南でたくさんの仕事が入り、デパート屋上での音楽イベントに出演させてもらったりもした。もしNYに行っていたら、それらの仕事やイベントに参加できなかったかと思うと、少し複雑な気持ちだった。

デパート屋上では、高校卒業以来だから約25年ぶり、四半世紀ぶりにバンドを復活して、5曲歌った。いろいろ考えた末に選んだ曲は、THE BLUE HEARTSの�@チェルノブイリ、�A英雄にあこがれて、�B青空、�C人にやさしく、�D終わらない歌。いい大人になった今、これらの歌詞の持つ多くのメッセージを味わいながら、でっかい声で歌った。

ここでまた、いつものように歌詞を引用してしまうのだが、ラストに選んだ「終わらない歌」のサビにこんな歌詞がある。「終わらない歌を歌おう。明日には笑えるように」
飫肥杉と出会ってしまった2006年から、コツコツ、チマチマ、メラメラ、ダラダラ、ムラムラ、活動を続けてきた。やめずに終わらせずに続けてきた。たくさんの仲間たちと出会い、酒を飲み、雄たけびをあげながら、支えられてきた。

「終わらない歌を歌おう」とは、やめない、終わらせない、続けるということだと思っている。
「明日には笑えるように」とは、子どもや孫など次の世代に、恥ずかしくないバトンを渡して、彼らが笑顔で過ごせるように的なことだと思っている。
今回のNY挑戦の目的も、このへんにあった。世界に売り込むだけではなく、挑戦という素晴らしさ、飫肥杉を使うという価値、そのへんを明日に伝えるためだった。「だった」と書くと終わっこと、過去形みたいだが、その後もメンバーは「なんやかんや」やっている。あきれるくらいに。笑

今回の、ボクを除く5人のメンバーは、俗に言う「ワカ者・ヨソ者・バカ者」だった。この挑戦が、いま日南での「飫肥杉ダラケのまちづくり」を加速させてくれている。ほんと、知らないところで普通に飫肥杉が使われていたり、いかにして飫肥杉を使おうかという議論が起こったりしている。もうボクなんかが出しゃばらなくても。正直ちょっとジェラシーも感じるのだが、とことん嬉しい。

かつて、飫肥藩を救った飫肥杉。いま、日南が飫肥杉を救えるのかが問われている。そこに日南市が消滅せずに輝き続ける道筋が見えてくるんじゃないかって思う。かつて飫肥杉で潤い賑わった日南市。もうそろそろ、この「かつて」を付けなくても良いように、大人も子どもも飫肥杉に自信と誇りを持って、それが日南に対する自信と誇りになって、日南を再び元気に。自信と誇りを取り戻すには、飫肥杉という価値は、歴史的にも量的にも弱さも心地良さも、これ以上のものは無い日南の宝だから。

こんなことを考えたりしながら、そういえば月刊杉62号（2010年10月号）や初寄稿だった15号（2006年10月号）で、そんなこと書いてたなぁ〜などと思い出している。