連載  
  あきた杉歳時記/第58回「スギコンプリート、危うし。」
文/写真 沓沢優子
  スギダラ秋田支部から、旬の秋田の杉直(さんちょく)だよりをお届けします ・・・・
 
   
  初投稿というのに思いっきり私事ではじめまして恐縮です。秋田支部の広報?を担当しております沓澤です。実は私、昨年大きな大きな決断をしました。
 
  秋田県南部の私の住む町の隣には、明治大正時代に隆盛を極めた増田町があります。鉱山や水力発電所など、当時の大地主の資力で次々と興された大事業による繁栄の軌跡が豪華絢爛な蔵として今に残されており、昨年倉敷などと同じ「歴史的建造物群保存地区」に指定されています。
   
 
  この町並みの各家の敷地の奥には大きな蔵が…
   
  そんな増田町から5kmほど離れた羽州街道沿いに「岩崎」という地区がありまして、短い期間ながら秋田の県庁所在地だったり、県内の道路で一番最初に舗装工事されたのが自慢の由緒ある土地柄です。高校時代の通学路でもあるその町を訪れた際、蔵付きの黒塀屋敷にかかる売看板を見つけました。若かりし昔、木蓮の花びらが塀越しにはらはらとこぼれる様を見て憧れた思いが蘇ります。看板が知り合いの不動産屋のものだったこともあって、半ば興味本位で中を見学させてもらいました。歴史ある建物の緊張感といったら押し潰されんばかりで、万に一つ譲ってもらっても一人でトイレに行けないぞ…などと想像しながら母屋に続く内蔵の中へ。
   
  「増田の蔵は欅が多いけど、この蔵の材料は秋田杉なんだよな」
と少し残念そうに話すのは見学者と聞いて駆けつけた持ち主さん。その一言にちょっと心が前のめり。
スギの蔵、私にはむしろウエルカムですけども。さらに続けて
「あなたが買えないんだったら蔵の部品が欲しい人いるから壊して売る」
と。その一言でさらに前のめりになってしまいました。
これを壊す?正気か? 
あ、でもさくっとやってしまいそうな感じがしなくもないね…
   
  見学だけのつもりで黒塀屋敷に足を踏み入れてから交渉すること2年、昨年の暮れ、分不相応にも黒塀屋敷維持の中継ぎを買って出て、この春カフェ&インテリアショップ兼事務所としてオープンしました。
   
 
 
  壁や天井の下地には杉の樹皮によるフォレストボードを使用
   
  スギの蔵、内装にも外装にもスギを使っもらい、サッシの窓枠もスギ、さらに暖房と融雪には建築端材や間伐材を燃料とする薪ボイラー、木の香りで満ち満ちの店内は地域の人にも好評で、やっぱりみんな木が好きなんだなぁ、と実感しています。
   
  ドタバタのオープンから間もないある日、父の友人である木材大好き叔父様が遊びにきました。うんうんと頷きながら店内を眺め、蔵に上がる叔父様。歴史を重ねた木肌を見つめる瞳は少年のように輝いています。
   
 

パンパン、と柱を手で打ちながら「立派なヒノキだな〜」と一言。

はい? いやいや、これはスギでしょ?
これを壊しちゃ秋田県人の名折れと思って、いきおい買って出たのですよ。
もっと良く見て。スギだよね?食い下がる私に

「スギじゃねえよ。ヒノキだ。間違いない」

あ、そう。間違いないのですね。何でしょう、この無念。
でも最新の座右の銘は「最善の力は自分を信ずる所にのみある」だから、ベストチョイスだったに違いありません。きっとスギだ。そう、前向きに。

   
 
 
  築120年以上。1階の床以外の木材にはほとんど痛みがない
   
  ただいま、スギ蔵<ヒノキ蔵 の票差を縮めてくださる鑑定団を大募集中ですので、スギ贔屓の皆さまにぜひお運びいただきたく存じます。
   
 
  店舗の木質化に支給される県の助成金を頂きました。
   
   
   
   
 

●<くつざわ• ゆうこ> アシスト實務工房 / ももとせ

   
 
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