連載  
  あきた杉歳時記/第57回「杉の橋、杉のダム」
文/写真 菅原香織
  スギダラ秋田支部から、旬の秋田の杉直(さんちょく)だよりをお届けします ・・・・
 
   
 
秋田は6月だというのに真夏日。今年の夏も暑そうです。
   
 

私事ですが、今年から秋田県立大学建築環境システム学専攻の社会人大学院生になりました。4月から若い方々に混ざって働きながらウン十年ぶりの「学生生活」を送っています。
秋田県立大学は、秋田市のキャンパスに農学系の生物資源学部、由利本荘市のキャンパスには工学系のシステム科学技術部の2つの学部があります。私が所属しているのは本荘キャンパスのほうの授業なのですが、1科目だけ、生物資源学部の方の授業を受けています。科目名は「木質材料・構造論」。秋田県立大学では木材高度加工研究所の研究員による木材に関するオムニバス授業が受けられるのです!(これが県立大学を志望した理由の一つでもあります)木材利用について考えるには欠かせないと思って履修しましたが、最初の授業で「よく、木の家は呼吸する、というコピーを目にすると思いますが、木材は死んでいるので呼吸はしません」と、目からウロコ的な発見の連続。これまでいかに情緒的に木材を捉えていたのかを気付かされました。

   
  さて先日、秋田杉を利用した木橋と木製ダムを見学に行きました。担当教官は佐々木貴信先生。(佐々木先生は、以前能代の秋田杉のオープンカフェを開催するときにお世話になった先生です。)佐々木先生は木でつくる土木構造物の研究がご専門で、この日は五城目町湯の又にある平成2年にかけられた、構造用集成材を主要部材に用いたタイドアーチ(集成材)橋を見に行きました。この橋は町道にかかる湾曲集成材と鉄のハイブリッドで、長さ13.54m、幅員6m。五城目営林署の樹齢70年以上の秋田杉間伐材(最小口径30cm)207本から作られたそうです。アーチ主桁部の上面には装飾を兼ねて庇をつけた銅板屋根がついており、まるで2匹の竜が横たわっているようでした。
   
 
 
湯の又橋は町道にかかる木橋。   銅の成分が木を腐りにくくするため銅板と木材は相性がよいそうです。
   
 
土木構築物見学には、虫除けと軍手、長靴は必携です。

景観にとけ込むオールウッドダム
  もう一つの土木構造物は、洪水や土砂流出を防ぐた めに設置される「治山・砂防ダム」で、自分の重量 で水や土砂の力に対抗する「重力式ダム」といわれ るものです。今回見てきたものはオールウッドタイ プの木製ダム。断面が30×25cm の横木と縦木を一 段ずつ交互に隙間なく並べて、ラグスクリューとい う接合金具で連結していきます。素人考えではコン クリートよりも比重が軽いので土砂で流されてしま うんじゃないかとかと思いましたが、背面の土砂の 積載荷重を利用することで中詰材を用いない施工方 法を考案し、秋田県内で施工実績を増やしているそ うです.
このオールウッドダムは一基あたり使用する木材量 は約150 立方メートルであり約30 トンの炭素を固定 することができるそうです。秋田県では平成13 年度 より83 基の木製ダムを設置しており、CO2 削減に寄与しているとのことです。
また、屋外で使うことで、木が腐ってしまうのでは ないかと思いますが、木材腐朽菌の生育条件には 「栄養分、水分、酸素、温度」の4 条件が揃うこと だそうで、土に触れるところ、水がかかるところ、 湿度が高いところ、風通しが悪いところは腐朽する 可能性が高い、つまりその4 条件が揃わないように すればいい訳なんですね。
 

木製ダムの場合、木材の表面に水が流れて酸素がな い状態になるので、腐りにくいという訳です。ただ、心材より辺材の耐朽性は低いので、辺材部分から腐朽していくとのこと。秋田は冬が長く低温の期間が長いので、暖かい地域よりは腐朽菌が生育しにくいそうです。オールウッドダムは秋田ならではのダムなんですね。

   
 

今後も木高研の研究成果の見学が予定されているので,またレポートしたいと思います。お楽しみに。

   
   
   
   
  ●<すがわら かおり> 教員
秋田公立美術大学 景観デザイン専攻 助教 http://www.akibi.ac.jp/
日本全国スギダラケ倶楽部 秋田支部長 北のスギダラ http://sgicci.exblog.jp/
月刊杉web単行本『あきた杉歳時記』 http://www.m-sugi.com/books/books_sugicchi.htm
月刊杉web単行本『あきた杉歳時記2』 http://www.m-sugi.com/books/books_sugicchi2.htm
   
 
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