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田舎の集落には良くある話ですが、同じ苗字の家が集まって集落を形成しています。これは田んぼなど先祖から続く土地と生活が繋がっていて、しかも本家、新宅というように分家していくことで集落が広がっていったからです。南雲という名字は魚沼地方や十日町市地域で多く、実家付近は南雲という名字が半分以上なので今でも屋号を使います。余談ですが、名字で「南雲」、「東雲」(しののめ)、はありますが、「西雲」、「北雲」存在しないようです。 さて、屋号で一番多いのは先祖の名前をそのまま使ったもので、たとえば実家は九兵衛といい、近所には藤四郎、伝兵衛、孫右衛門、市左衛門、繁右衛門、利右衛門、籐左衛門、五郎右衛門、助左衛門、籐左衛門、などです。屋号は会話ではそのまま使わず、日常的に呼びやすいよう簡略して呼びます。一般的に語尾にどんをつけ、それぞれ、きょべどん、とうしろどん、でんべどん、まごいんどん、いっつぇんどん、しげんどん、りんどん、どうぜんどん、ごらいんどん、すけぜんどん、とうぜんどん、といった風に発音しました。 商業をしている家は呉服屋の関屋、塩を売っている店は坂本屋、水車で粉をひく家は車屋の様に店の屋号がそのまま使用されました。また職業から由来する屋号もあり、狩りをしていた家は鉄砲、木挽をしていた家はそのまま木挽とかいうように。また大阪とか名古屋といった出身地を示す屋号もあります。さらに集落の一番上に位置すると大上(おおかみ)というように地理的な場所を示す屋号もあります。 家族が増え、分家すると新宅といいます。たとえば九兵衛から分家すると九兵衛新宅、藤四郎から分家すると藤四郎新宅という風に。そして新宅からみた本家を日常的には表(オモテ)といいます。表と新宅の集まりを巻(マキ)と呼び、地域の中でもっとも強い繋がりを持ち協力し合います。長い間の本家分家の関係はいくつもの巻を形成していくことになり、地域の最小コミュニティーとなります。そして地域の大本家は大家と呼び、昔は集落全体を取り仕切る庄屋で今でも立派な屋敷を構えています。 屋号は個人よりもイエを優先する習慣で、自分を紹介するときも名前ではなく、「どこどこの家の、どういう立場のものである。」という情報が重要視されます。これは今も同じように引き継がれていて、たとえば自分の場合は「きょべどんのア二」というだけでで地域の人達は何処の誰かわかるのです。ここでいうア二は長男の事で次男はオジ、長女はアンネ、次女はオバといいました。しかし子供心にきょべどんという響きがどうも格好悪く、もっといい名前ならいいのにな〜、などと思ったものです。もちろん今は九兵衛という名前は結構好きです。 今のようにイエ制度の文化がすたれ、個人が重視される時代になっても、農村部では屋号はまだまだ健在なのです。冠婚葬祭や自治を始め、暮らしの中で今も一般的に使われています。たとえば電話帳にも個人名と併記して屋号が使用されているのです。 また日常生活でも同じ名字が多いので間違いを防ぐため、長靴や笠、道具や農具には焼き印やマジックで屋号を書いておきます。 |
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個人より大事なイエの存在。農村ではまだまだその概念は簡単には消えません。個人主義、自由主義、その正反対のような存在。それはいずれ無くなっていくとは今は思えません。地域の思いであり、同じ価値を共有し自助の精神を持って生き延びる術なのです。 それだけにイエが絶えるということは一大事です。そんな時代の狭間にいて自分のこれから進むべき道を考えたりします。それはどう生きるか?ということよりもどう繋いで行くか?という気持ちが自然に強くなってきます。哲学的にいえばどう死んでいくかという言い方が正しいかも知れません。 |
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● <なぐも・かつし> デザイナー ナグモデザイン事務所代表。新潟県六日町生まれ。 家具や景観プロダクトを中心に活動。最近はひとやまちづくりを通したデザインに奮闘。 著書『デザイン図鑑+ナグモノガタリ』(ラトルズ)など。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部 facebook:https://www.facebook.com/katsushi.nagumo エンジニアアーキテクト協会 会員 月刊杉web単行本『かみざき物語り』(共著):http://m-sugi.com/books/books_kamizaki.htm 月刊杉web単行本『杉スツール100選』:http://www.m-sugi.com/books/books_stool.htm 月刊杉web単行本『2007-2009』:http://www.m-sugi.com/books/books_nagumo2.htm |
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