連載

 
杉スツール100選 第6回 「デザイナーなしのスギスツールなど」
文 写真/南雲勝志
スツールというシンプルな形を通して、杉の家具材としての可能性を探る。目標100点。
 

 正直言ってこの企画を考えた頃は、もう少しスギスツールという切り口でいくとどんどん広がりを見せていくと思っていた。
ところがどっこい、意外とないのである、というほど取材や意識して探そうとしていないのも事実であるが、早くもうっすら危機感を抱くまでになっている。
しかし諦めたわけではない。いずれはスギスツールコンペ(もちろんその時はもっと魅力的な名前であるが)も考えているし、それとセットで成立するイベントの構想もあるのである。しかし、今これ以上スギダラ系にエネルギーをシフトすると危機的な状況になることも容易に想像出来る。
今はじっくり期が熟すのを待っている。バーナード・ルドフスキーの著書に敬意を表してなどと、大それた気持ちはないのだが、今回は繋ぎとして(と軽く言ったら本当に山芋をすって出す店があったのだ)プロダクトとではないが、魅力的なスギスツール?のようなもの、を紹介したい。

 あちこち旅をしていると、意外とあっ、これいいじゃん。というものは結構ある。それらは何で魅力的なのか?ひとつはマーケティングや、コストコントロールといった世界とは無縁であり、ひたすらある機能のためにつくられたものだからである。また、ごく限られた人のためにつくられたりするものだからである。
そう、ある目的のために、ある人だけが恩恵を得れば良いのであって、それ以上の色気がない。この色気がないところが実は魅力なのではないだろうか。つまり、みえみえではないのだ(内田さんごめんなさい)。プロダクトとなるとピーアールをしようと一生懸命でどこを見せたいかが見えすぎるのである。そんなモノに辟易している人間にとって、言葉を持たず、色気を持たない純粋な道具達はよだれものだ。最もそんな人間達だからこそスギに群がるのだ。
 さてそんなモノ達をいくつか紹介しよう。
写真1は日南市の堀川運河関連の木材ワーキングに訪れた時に見かけたもの。下駄のようなシンプルな構造、継ぎ手もいたって単純、そして脚と座のプロポーションが信じられない構成だ。見た瞬間、あっコレその辺に転がっていた端材でつくったのだろう…と思ったが、次の瞬間、このプロポーションを意識してつくったのであれば、なかなかのやり手では、と思ってしまった。ぱっと見てその場を去ることの出来ない不思議な雰囲気を、そのスツールは持っていたのである。いったんその部屋を出たものの気になってまた戻ってきてしまった。傍らには年期の入ったコレは正統的な長椅子が置いてある。やはりコレは意識している。この工場の文化だと勝手に思ってしまう。
 次は座ることとは全く無関係なスギ関連グッツ。写真3は木材関係者なら誰でも知っている、杉の作業脚(すみません、名前を聞いたことがあるような記憶がありますが忘れました)。この上に製材を載せたり、運んだりする。板を置けば作業台になる。継ぎ手や収まりを気にするのではなく、ひたすら強度優先でつくり、飾っているものがひとつもない。そして何千、何万回となくその使命を全うする。エライ!
 次は(写真4)杉板乾燥装置、実はこの製材所のある高知県馬路村は良質の杉材の原生林で知られ、江戸時代から繁栄してきた。現在、原生林は保護林となり、一般には伐採されなくなったが、天井材などに使用する、大径木をスライスした板材を一定の間隔に隙間を保ちつつ乾燥する道具である。いつの頃のものか聞かなかったが、おそらく戦後あたりか。まだ杉の需要が多かった頃ここにびっしり杉が並び、ひっきりなしで働いていたであろうが、今は時々しか使っていないようだ。
杉材を吊していない状態はどことなく寂しく、でも必至で頑張っているような姿には心打たれる。かつての鉄工所や、自動織機工場などもそうだが、そこに当時の人の夢や希望が重なって見えるのだ。最盛期70人が働いていたというその製材所は、今3〜4人の人影しか見えない。巨大な空間に今は時代遅れになった感のする製材機械が並ぶ。そのはかなさがよりいっそう、そこの道具達の味を増している。
  圧巻は写真5。4〜5mの板を乗せるとそのまま巨大な移動杉ベンチなる。ものを乗せればTV-stageなんて小さい、小さいってな事になる。ようはなくてはならない大切な道具に単なるノスタルジーではない、必然性を感じるのである。現代だって携帯も、自動車もなくてはならないと言われているが、実はなくても成立するのだ。本来なくてはならないものが失われつつある事に危機感をもち、逆転して成立している社会に不安や疑問、憤りを感じている。スギダラの輪はそうした価値観の共有でもあると思っている。
 最後は秋田県二ッ井町の鍛冶屋の安保さんが製作したもの。鉄でものをつくるのが大好きでしょうがない彼はいろいろ自分で発想してつくってしまう。写真7はプロパンガスボンベを改造して製作した石炭ストーブ。アヒルのような形状に彼のものづくりを楽しむ姿勢が見えてきて楽しい。何よりつくるものが魅力的だ。基本理念がスギダラ系と一緒なのかも。と思ってしまうほど。もともと鍬や鋤など農工具を製作し、メンテナンスをしていたらしいが、その手の仕事はめっきり減ったらしい。それでも忙しくて仕事を断っていると聞くとなんだかうれしくなってくる。
たぶんまた彼とは一緒に何かつくる予感がしている。

 
写真1:製材所の休憩所にそっと置かれたスギスツール(宮崎県日南市)

写真2:上と同じ部屋に置かれたスギベンチ(コレは相当使い込まれている)

写真3:製材所によくある作業用の脚(高知県馬路村の製材所で)

写真4:スライスした杉板を乾燥するための装置。上の棒の間に板材を立てかけ、自然乾燥させる。なんだか宇宙人が行進しているようだ。(同製材所)
 
写真7:やはり馬路村の製材所にある長もの材運搬用の代車。もうすでに相当発している。友達だ!。

 
写真6:ぶんぶくすぎっちんを製作してくれた、安保鍛冶やさんの仕事場。なんだかとにかくすごい。何でもつくれそう。
  写真7:安保さんがプロパンガスボンベを切断してつくったストーブ。

●<なぐも・かつし>デザイナー
ナグモデザイン事務所 代表。新潟県六日町生まれ。 家具や景観プロダクトを中心に活動。最近はひとやまちづくりを通したデザインに奮闘。著書『デザイン図鑑+ナグモノガタリ』(ラトルズ)共著:都市の水辺をデザインする―グラウンドスケープデザイン群団奮闘記 (彰国社)など。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部

   
   
 Copyright(C) 2005 GEKKAN SUGI all rights reserved