秋田で建材や内装材、建具以外の杉製品といえば、「曲げわっぱ」や「秋田杉桶樽」の工芸品が有名である。工法は違うがどちらも「天然秋田杉」を材料としている。
では、造林秋田スギや間伐材を活用したスギ製品は?と探してみると、住宅同様、これもなかなか見当たらない。一般の家庭で使えるようなものとしては、一枚板のテーブルや伐根の座卓と言った民芸品的なものはあるが、使いたい!と思えるような秋田スギの製品がなかった。
そんなとき、2003年3月、秋田県中小企業団体中央会主催の「創業・企業経営刷新プラザ」に出展された「杉キッチン」を発見!しかも製作したのは、モクネットの桜庭さん。本業の建具製作の技術を駆使して、製品化にこぎ着けたとのこと。秋田スギの扱い方を熟知していなければここまでの完成度は望めなかっただろう。直接受注で注文もいろいろ受けてくれて、しかも値段も手の届く設定。うれしいじゃないですか。またもいつか自分が家を建てたら…と夢みていたが、そう遠くないうちに現実となったのだ。
リノベーション
時同じく2003年の4月。子供が小学校まで通うのに徒歩で30分もかかるので、同じ学区でもう少し近いところに引っ越したいと思っていたところ、ちょうど手頃な中古物件がみつかった。 鉄骨平屋建てで築18年、もとは事務所と倉庫が入っていた。本当は木造住宅希望だったけど、まだまだ躯体はしっかりしているので、内装を撤去して木造の箱をすっぽり入れるような「スケルトンインフィル」の住宅に改造することにした。 予算の関係もあって、全ての材料を杉で、とはいかなかったのだが、モクネットから床材(秋田スギ無垢並材厚さ30ミリ)、断熱材(フォレストボード厚さ40ミリ)、床下調湿材(ゼオライト)、を調達。そして桜庭さんに杉キッチンを作ってもらい、2004年5月、念願のスギダラケライフが始まったのである。
今年で2回目の冬を迎えるが、床は家族の成長をやさしく刻んで、味わい深い色あいになってきた。10月の秋田杉見学ツアーで梅内の学習林で枝打ちをしてからは、床板の節のひとつひとつに、手間をかけて育ててくれた人に感謝する一方で、手入れされずに荒れていく山への複雑な思いが交錯するようになった。
杉キッチンには、引越し祝いにモクネットの加藤さんからいただいた杉の米びつがぴったりと納まっている。今日も、大館の日樽さんから購入したおひつに、栗久さんから購入したおしゃもじで新米をよそって、目にも美味しい秋田杉を味わう。
昔はこんな暮しはきっと当たり前だったはず。たくさんの人と杉との‘必然の出合い’のおかげで、便利さや手軽さに、いつしか忘れてきてしまった杉と過ごす豊かな時間が、いま静かに私の周りで流れはじめている。
●<すがわら
かおり> 教員
秋田公立美術工芸短期大学 産業デザイン学科助手
日本全国スギダラケ倶楽部 会員No.47 秋田支部長
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