連載

 

スギダラな人びと探訪/第2回

文/写真 千代田健一
杉を愛してやまない人びとを、日本各地に訪ねます。どんな杉好きが待ち受けているでしょう。
 

 まずは、スギダラ倶楽部からのお知らせですが、この原稿執筆時点で会員数は191名になりました。200を超えるのも時間の問題です。さらにスギダラな輪を広げてゆくためにご支援の程、ヨロスギお願いいたします。

 さて、今回は前回に引き続き、天竜杉の産地、静岡県は浜松市のスギダラ仲間をご紹介します。会員番号148番の荒井雄一さんと会員番号150の杉山岳弘さんです。
 前号で浜松市にキャンパスがある某大学の研究室に杉を使った実験空間をつくろう、というお話をちょっとだけ書かせていただきましたが、お二人はその大学の学生と先生です。某大学とは静岡大学のことで、今回の杉ルーム、同大学の情報学部と私の勤める内田洋行との間でプロジェクト化したものです。
 実はこの話、6月に開催された「New Education Expo 2005」という教育関連のセミナー・展示イベントで、スギダラ倶楽部が出品したミニマムな杉空間(杉パオ)の写真を杉山先生を始めとする情報学部の先生方にお見せしたところから始まります。この計画の中心人物が杉山先生で、正にタイムリーというかその名の通りというか……、即決で杉の杉山ルームをつくろう!という話になったのです。
 荒井さんはそこの学生で、実は内田洋行の来年の新卒採用に内定しております。荒井さんは映像コンテンツの製作を行っていて、既にスギダラHP上でも素敵な杉コンテンツを発表してくれています。是非BBSの過去ログを探ってみてください。
 杉山先生の他にもこのプロジェクトには素晴らしいメンバーがいらっしゃいます。竹林先生、桐山先生、坂根先生、と皆さん何かしら木に関わるお名前でスギダラプロジェクトに相応しい布陣でしょ?
 この皆さんで内田洋行を訪問していただいた際にスギダラの活動のこともお話しました。活動主旨にも賛同いただき、浜松と言えば天竜杉なので、ぜひ地場の材を使ってつくろうということで盛り上がったのです。実はここが最も重要なポイントで、スギダラとしても初の試みになります。ユーザー(大学)と企業(内田洋行)と地場産業(丸八製材所)とのコラボレーションという、スギダラが目指すものづくりの理想形のひとつをここで実現できることになりました。内田洋行が空間の設計と金属パーツを製作、丸八製材所が杉材を製作、大学の学生諸君による施工により、7月28日、第1段階が完成いたしました。

 

(左)完成した杉パオ。ビデオ教材を映すためのプラズマディスプレイがうまく空間に溶け込んでいる。この他に撮影用のカメラが数台設置される予定。 (右)部屋の入り口部に設置したサブの杉パオ。カメラが既に設置されている。

 そもそも企業から提案するものをユーザーサイドで施工するなんてことは安全面のこともあり、普通はやりませんが、こういう無謀?な提案をすんなり受け入れてくれるところがスギダラならではなのだと思います。自分たちでつくった空間であれば、出来上がった空間に対する愛情も人任せにするよりは断然高まるはずですよね。

 何をするための空間なのか解説しますと、この研究室では幼児教育を題材に情報科学という技術的な側面からのアプローチと、情報社会学という情報と産業、社会との関わりを研究する側面からのアプローチを同時に行っているもので、今回の杉ルームはその幼児教室の情報装備をするための屋台骨を成すものとなります。平たく言うと、授業の様子を収録できる仮設の撮影スタジオの保育園版みたいな空間です。そこには多くのビデオカメラやマイク、スピーカー、制御用のPC等機器類が設置されるのですが、そういった機器類を天井や壁に直に取り付けると機器の入れかえや配置換えが迅速にできなくなり、コストもかかるため、機器類を取り付けやすいようフレームを室内に一端張り巡らせるというのが基本構想です。で、テーマが幼児教育なんで、厳ついイメージのプロ用撮影スタジオのようにするのではなく、住空間に近い雰囲気にして幼児がのびのびと学習できる空間をつくるべきであり、それで杉パオがヒットしたのでした。

 杉材は前号でご紹介した丸八製材所の山口さんが自ら運んできてくれて、学生諸君と早速搬入を開始。まず柱材にスチール製のコネクター(連結金具)を取り付けるところから始めました。当然ながら木には上下があって、組み立てもきっちり上下揃えてやった方がいいので、山口さんにその判断方法を教わりました。

(左) コネクターを取り付ける作業。山口さんに材料の上下の見分け方を教わる。(中)これがスチール製のコネクター。角材にかぶせてボルト留めするだけで組み上がってゆく。(右)山口さんに杉材のことを詳しく教わっている荒井さん。

 杉パオの大きさは、ざっと6m×4m。ビデオ撮影する時にケラレる部分が少なくなるようにできるだけ柱を少なくした設計にしている為、組み立ては結構難しかったです。一番長い梁(上側の横渡し)が3.8mもありそれが中空に浮いてるように設置するわけですから……。

(左)梁を連結して組み上げてゆく。上部への取り付けはかなり注意が必要。以前、私の頭に梁が落ちてきて怪我したことがありました。(涙)。(中)ボルトで留めただけでは安定しないので、木ネジで固定してゆく。これでかなり揺れが止まる。(右)プラズマディスプレイ用の金具がなかなか入らないので、現場で柱材にカンナ掛けまでやりました。

 それと時間がかかったのは構造的な補強も兼ねたリブ状の横桟の取り付けで、1本1本釘で打ち付けて行きました。全部で200本もあったのですが、多くの学生諸君に集まってもらったので、何とかなりました。朝10時に搬入を開始してから、完成後記念撮影したのが20時近くになってましたから、延べ8時間くらいかかりました。

 

(左)補強の横桟のゲージを貼り付けて、きっちり水平がでるようにする。(右)合計200本もの横桟の釘打ちは思ったより時間がかかりました。もっと金槌持って行けば良かった……。

 本当に静大の学生諸君の頑張りには助かりました。能動的に動き、手を抜かずにきっちり仕事をしてくれました。組みあがった後でも子どもたちが怪我したりしないように、角張った木の断面をやすり掛けしたり、既に愛情入ってます!
 自分たちでつくり、使ってゆくものなので当然なのですが、それに自ら気づき実行するなんて案外できないものなんです。そういった意味でも互いにいい経験だったと思うし、きっとうまく使いこなしてくれると思います。できあがった空間の雰囲気、匂い、出来栄えに皆さんかなりご満悦でした。先生方が一番盛り上がってたかな?(笑)

 こうして静大の杉プロジェクトは企業や大学と言った枠組を超えて人と人との大きな絆をつくることに成功しました。しかも地場にあるものは地場で調達、ユーザー自ら組み立てるという今回の試み、費用面でも驚くほど安価に実現することができました。大工さんのような専門職を雇わなくても成り立つ空間づくりは新たなマーケットの形成を可能にすると思いますし、その可能性を今後も追求してゆきたいと思います。
 スギダラ会員の杉山先生、荒井さんを始め、施工を手伝ってくれた学生の皆様、この素晴らしい企画を推進していただいた竹林先生、桐山先生、坂根先生、お疲れさまでした&ありがとうございました。
 この杉パオ、いろんな方面で話題になることでしょう!

今回関わったメンバーで記念撮影。中央の黒いTシャツを着ているのがNo.148の荒井さんで、その上のメガネを掛けた方がNo.150の杉山先生です。

 実はこの組み立ての様子もビデオに記録しているので、後々杉パオマニュアルなるものを作成することも可能です。動画と音声によるビジュアルコンテンツのわかり易さ、そのコンテンツをスピーディに作成する仕組みをご披露できる機会もあると思いますのでお楽しみに。

●<ちよだ・けんいち>インハウス・プロダクトデザイナー
株式会社内田洋行 テクニカルデザインセンター所属。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部広報宣伝部長

   
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