緋色に燃えた杉山のほとぼりがさめると、柔らかな新芽が伸びて、緑の実が真ん丸に大きくなっていきます。私には雌花の花がいつのまに咲いていたのかわかりません。
でも見逃した雌しべにあの花粉たちが無事にたどりついたのでしょう。
(まさか……誰かのハナの雌しべに、花粉が飛んでいって、実を結んでいる……なんてことないよね。)
雌花がいつ咲いたかわからないというのは、杉の木・枝をマジマジ、ジロジロと観察するようになった去年の10月ごろにも雌花の小さなつぼみがあって、それが年を越して春になっても、ただそのまんま大きな球になったようにしか見えないから。殿方の派手な(ニュースにもなるような)花粉散布に比べて、ご婦人方には花々しい瞬間がないようなのです。(でもきっとこっそりドラマチックにやってるんでしょうね)
杉の学名の「隠されたもの」Cryptomeria(クリプトメリア)、というのは「球果が葉に隠されている」、というところからきているそうですが、なるほどボンヤリしていると緑のままの球果はなかなかみつけられません。
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でも、この緑の玉、とてもかわいく美しく、鈴なりになっているところなんて、ほんとうに鈴の音かなんかが聞こえてきそうです。
これから月に一度ほど、この球果が茶色の杉ぼっくり(というのかな?)になっていく様子をお伝えします。
季節がめぐるにつれて雄花や葉、樹皮にも目がいくでしょう。虫や鳥たちにもきっと会うでしょう。
この暦とともにどんな「杉との遭遇」があるのか、まだ想像がつきません。
基本的に神奈川県のとある畑小屋のそばに生えている一本の杉の木を追いますが、ときには旅先で会った杉たちにも登場してもらいたいな、と、そんな機会があることも願っています。
私にとっては、生まれてはじめてみつめる杉の、生き物としての移り変わりです。
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