特集

 
杉コンペの可能性
文/海野洋光
世界初!? 杉に限定したコンペが宮崎県日向で始まった。杉産地の新たな取り組みに注目。
 


杉には、不思議な魅力があります。杉と聞いただけで「花粉」と悪いイメージを挙げる人がいますが、ちょっと昔は、船、大八車や桶、家に家具、下駄、弁当箱にとなくてはならない素材だったのです。日本ではなんにでも使える素材として使われていた長い歴史があります。その杉が、鉄やプラスチックに取って代わったのは時代の流れ、と片付けるには少々乱暴な気がします。この見直されてしかるべき、不思議な素材をどのように多くの人に知ってもらうかが、私のひとつの仕事です。

宮崎県木材青壮年会連合会は、2004年に杉のコンペ「杉コレクション」を開催しました。「コレクション」と言う言葉には、杉の素材自体に演出可能な力があることと、杉という素材を多くの人に知っていただきたい、見て触れてほしいと言う意図があります。発表の場であると同時に、情報を共有、収集する場に発展してほしいと願っています。
杉のコンペを開催するに当たっては、注意した点があります。ひとつは、テーマの幅を限定した点です。一見、応募者の想像力に枠をはめると思われたり、主催者の意図が色濃く反映されるものと受け取られるかもしれません。しかし、杉というスーパーマテリアルで作れるものは、小物から住宅まで非常に多種多彩です。応募者を羅針盤のない船で航海させるようなコンペにしてはならないという考えからなのです。また、テーマに副題をつけることも進化しているコンペの表れなのかもしれません。2004年のテーマは「ステーションファニチャー」で「杉の可能性」という副題をつけました。2005年のテーマは「一坪の杉空間」、副題は「杉の普及」です。それぞれ、そのテーマにおいて目指したいことを副題としています。ここでみなさん、よーく考えてみてください。「鉄」や「プラスチック」という素材だったらどうなったでしょう。一般の人たちや学生が参加しようと思い立つでしょうか? 誰でも扱うことが難しくないスーパーマテリアルな杉は、何人に対しても懐の深い不思議な素材なのです。

「杉コレクション2004」の応募の期間中には、ある方から「自腹で作品を作り、遠い宮崎の地まで運ばなければならない杉コレは、応募者に負担が大きく参加しにくい」とのメールをいただきました。コンペなんてまったく知らないど素人の私は、応募者からのそんな反応もありがたいものでした。そのメールの応えになっているかわかりませんが、「杉コレクション2005」では、一次審査通過の作品を主催者側が原寸で製作することにしました。杉に関するデザインやアイデアを具現化するもの作りのプロセスが、応募者と主催者で共有できると考えた結果です。「杉コレクション」は、応募者にも主催者にも刺激を与えながら(お互いがメリットを共有化できる)、現在進行形で進化しています。杉という素材がそうさせているのかもしれません。

●<うみの・ひろみつ>海野建設
宮崎県木材青壮年会連合会に所属。まちづくりから市民の木工指導まで幅広い活動を行う。視野の広さと実行力が魅力。


 
昨年11月13日に行われた「杉コレクション2004」の審査会で、一次審査を通過した9作が発表され、オープン審査の結果、決定した5点の入賞作を紹介します。撮影/千代田健一
  杉コレクション2005ではポスターも製作。 興味のある方はダウンロードしてご覧下さい。(pdf)
審査風景:審査日は晴天に恵まれ、大勢の市民も同席した。ステージはやはり地元製作の杉舞台。審査委員長の内藤廣さんも見える。

最優秀賞:狩野新さんの「ベンチ」。50o角の角材を縦に並べ、座面には波打つようにカーブがつけられている。

優秀賞:杉の美しい木目を活かしたシンプルな椅子「杉zebra」。宮晶子さんのデザイン。なお、近々、商品化の予定。

優秀賞:杉浦哲馬さんデザインの「日向市駅のためのステーションファニチャー」。丸みを帯びたフォルムは、優しい触り心地だ。

優秀賞:杉の座ブトン「床坐」。残念ながら座れる強度は出せかったが、ユニークなアイデアは評価された。只佳子さんのデザイン。

特別賞:ファニチャーというテーマを越えて、杉を愛する気持ちが感動を呼んだ、河崎武夫さんの「古代舟」。なんと河崎さんの手による杉の一刀彫。
 
 
  Copyright(C) 2005 Gekkan sugi All Rights Reserved