特集

 
杉の未来 その1
文/写真 内田みえ
杉と向き合うと今の日本が見えてくる。みんなの明るい未来のために、今、何をすべきだろう。
 

●杉との出会い、杉の魅力

 いきなりカミングアウトすると、杉なんてぜんぜん気にも留めていなかった。「野暮ったいなー、山の問題も重いな〜」なんてむしろネガティブに思っていたぐらいだ。第一、この仕事につくまで、自分の生活の中で杉を意識したことなど皆無だったのだ。そんな私がインテリア雑誌の編集を始めた15年前頃、間伐材の利用が声高に叫ばれていて、林業の見直しや、新しい建材の開発、新しい木構造の試み、地元の木で家を建てる運動などなど、さまざまな木、山への取り組みが起こっていたが、私はそういう動きの良い悪いも好き嫌いもわからず、妙に冷めていたのを覚えている。杉の住宅の取材などをしつつも、まったく他人事だった。その私が「あれ? もしかして杉ってかっこいい?」なんて思い始めたのは、家具産地・都城(宮崎県)の取材をした時。デザイナーの小泉誠さんが、地元の杉を、しかもありふれた規格の角材を用いてデザインしたテーブル「BEPPU」がきっかけだった。これがまたかっこいいのなんのって、その存在感に圧倒された。また、天板をうづくりにしたところも憎かった。その時初めて私は杉に出会ったように思う。

(右上)小泉誠さんデザインの「BEPPU」ダイニングテーブル。
角材を横に並べて転結した天板に、同じ角材の脚を建築の仕口で
組んでいる。(右)「BEPPU」チェア。これも同じ角材で構成。
仕口も同じ。製作/クワハタ ・ 撮影/梶原敏英 
[Koizumi Studio] http://www.koizumi-studio.jp
 

 

(上)南雲勝志さんデザインの「杉太」。たったこれだけで、どうしてこんなにかっこいいんでしょうか。杉そのものを現した究極のデザイン、と言わせていただきます。ちなみに、受注販売されています。

 だかしかし、出会ったものの、私はまだ杉にちゃんと向き合っていなかった。それに気づかされたのが、「杉太」との出会いだ。今、杉仲間として一緒に活動する、デザイナー南雲勝志さんがデザインしたそのベンチは、柱材に使われる一般的な角材を切ってそのまま用いたもの。スチールの愛嬌ある脚がちょこっとついているだけで、そのまんまじゃん、と言われればそうなのだが、そこがこのデザインのすばらしさで、何もしていない加減が絶妙なのだ。杉太を初めて見たとき、そのデカイ角材でアタマを後から思いっきりひっぱたかれたような衝撃が走った。大げさに聞こえるかもしれないが、この月刊『杉』もそこから始まったと思うと、あの衝撃はやはり人の人生を変えるぐらいの大きな出来事だったのだと思う。では、何がそんなに衝撃だったのか……。そこにあるのはただの杉の角材なのに、これまで見て知っていた杉材とはまったく別物になっていて、それなのにどんな杉材よりももっと杉杉(すぎすぎ)している、そんな不思議な杉の表情やら空気感がものすごくおもしろく感じられたのだ。「今まで私は杉のどこを見てきたのだろう」って真剣に思った。そして、そういった杉の潜在的な魅力を引き出した南雲さんのデザイン力に脱帽した。完成度が高いとか、そういうデザイン力ではない。愛あるデザインというとなんか安っぽい響きになってしまうけど、でもホントにそう感じられた。もしかして、デザインってこういうことなのかな? とも。「杉ってなんておもしろいんだろう。杉くん、お前、かっこいいよ」心からそう思ったのだった。 

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